サービスの押し売りや顧客のご用聞きは低次元の営みだ:「2009 逆風に立ち向かう企業」NTTデータ(2/2 ページ)
景気悪化に伴い多くの企業がIT投資を抑えようとする中、システムを提供するITベンダーは「ただ単に物を売る」というビジネス構造から脱却を図る必要がある。「システムインテグレーターの枠を超える」と標榜するNTTデータの荒田和之取締役常務執行役員に、ユーザー企業の動向を振り返ってもらった。
「ITなくして経営は立ちゆかない。高まるITへの顧客企業の要求に応える」と荒田氏は力を込める。現在、システム開発がビジネス領域の過半数を占めているが、今後はコンサルティングやサービス部門の比重を半分近くに引き上げる見通しという
ITmedia IT投資への抑制が見られるようになる中、ユーザー企業が2008年に伸ばそうとしていた分野はありましたか。
荒田 在庫の最適化などを行うサプライチェーンマネジメントなど、普遍的なシステムへの投資に加え、顧客情報を分析し、経営に生かすための投資意欲が旺盛だった印象があります。注目を集めつつも具体的な動きが見られなかった分野ですが、ようやくエンジンがかかってきたのでしょうか。
その背景には、企業の従業員一人一人が携帯電話を持つようになり、SuicaといったICカードによる電子マネーの利用などが一般的になったことがあります。現金の支払いでは把握しきれなかった顧客情報を電子データとして集めて、マーケティングや商品企画に生かす――そうしたサイクルが回りつつあります。情報量の大小を問わず、電子データのロングテールの部分は新たなビジネスチャンスになりうるでしょう。
ITmedia 2009年のユーザー企業のIT投資に対する動きをどう見ますか。
荒田 企業の合従連衡が今まで以上に起こり、クラウドコンピューティングに代表されるネットワークを介したIT機能の共有が進むと見ています。国内企業はソフトウェアを作り込む傾向にありますが、今後重要になるのはITをどう活用するかという意識です。コアコンピタンスとなる部分は自社で作り込み、それ以外は外部のリソースを活用するなど、メリハリが大事になります。それはユーザー企業にもNTTデータにも言えることです。
ITmedia NTTグループであるNTTデータにとって、NGN(次世代ネットワーク)の推進がキーになるのでしょうか。
荒田 ソフトウェアやIT基盤の共同利用に寄与するSaaS(サービスとしてのソフトウェア)やクラウドコンピューティングの普及には、セキュアなネットワークが必要不可欠です。こうした意味で、NGNには大きな期待が懸かります。
ですが、コンピュータを所有し、自社内で情報を管理したい考える企業は依然として多いです。IT投資を抑えたいという意識がSaaS市場の拡大をけん引するとも考えられますが、大規模の企業ではまだ波はこないでしょう。外部に情報を預けることに対する不安も、まだぬぐい去れていません。逆に、IT投資の体力がない企業や中小規模の企業は、SaaSの波に乗ってビジネスを展開する動きが見られるはずです。
個人的には、国内企業は情報管理により注力してもいいのではないかと感じています。諸外国の企業では、「情報戦争」という意識を持ってビジネスを展開していますが、日本の企業はまだ脇が甘い。水などの社会インフラをタダ同然と考える文化にその原因があるかもしれません。こうした意識の喚起は、業界全体で推し進めていく必要がありますね。
ITmedia 荒田さんが掲げる2009年の個人的な目標を教えてください。
目の前の仕事をこなしているだけではさびしいので、公私のメリハリをつけることを意識します。英語力が貧弱なので、英語を勉強したい。あとは10年以上続けている少年サッカーのコーチにも力を入れます。夫婦で旅行するのもいいですね。宣言したからにはきちんと実行しないといけません(笑)
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