背に腹はかえられぬ? 増加する値上げ、課金:ネットの逆流(8)(2/2 ページ)
不況が広告の減少に繋がり、これまで無料で提供されてきたサービスの存続問題にもなっている。また、セキュリティ名目で急きょ行われた予告無しの課金引き落とし問題も発覚した。いったい、2009年のネットサービスはどうなっていくのだろうか。
お金を使ってと呼びかける真意
今回の事例とは別に、昨年あたりからネットサービスでは、背に腹はかえられない「課金」に関する話題がチラホラ出てきている。
12月には、SNS「カフェスタ」が、「サービス存続のために有料会員になるか、アバターなどアイテムを購入してほしい」とユーザーに異例の呼び掛けをしたことが話題となった。不況の波の中で、従来の広告収入では運営が難しくなってきているというのだ。ユーザーに有料のアバターなどを購入してもらうことで、サービスを存続していきたいという。カフェスタの上澤馨社長は「広告収入で成り立たせる無料モデルは、もう限界だ」と語っている。
しかし、無料サービスとして利用してきたものに対して、お金を払ってまで使いたいと考えるかどうか。それだけ魅力的なコンテンツ、場所を提供しているかにかかっているといえるが、不況による広告の減少が止まらなければ、ほかのサービスからも同じ訴えが出てくる可能性もある。
その一方で、インターネット利用動向を調査する米comScoreのウィル・ホッジマン上級副社長は、「ユーザーが無料のコンテンツを求めて」いて、「基本的には今後も広告収入のモデルがネットビジネスに広がる」と指摘している。それに加えて、この世界的な不況だ。財布の紐はどうしても硬くなる。そこで無料だったものを有料に転換しても、ユーザーがついてくるだろうか。ウィル・ホッジマン氏は、「消費者がオンラインにお金を払うのは特別なコンテンツのみ」と語り、「プレミアムなコンテンツにユーザーが実際にお金を支払っているのも事実」と指摘している。つまり、ユーザーがお金を払ってでも使いたいと思うコンテンツを提供できるか否かが、分かれ目となるだろう。
カフェスタの上澤社長は「カフェスタのサービスにコーヒー1杯分ぐらいの価値を感じてくれるなら、月額315円(パスポート会員の会費)ほど支払って一緒にサービスの満足度を上げよう、と考えてもらえないだろうか」と語っている。それは、ウィル・ホッジマン氏の言うところの「プレミアムなコンテンツ」なのかどうかというところだろう。
PCサイトと違って、課金サービスが定着しているケータイサイトでも、迷走がある。
ソフトバンクモバイルは、2009年2月1日から「Yahoo!ケータイ」トップページの通信料を有料化する方針を昨年10月31日に打ち出していたが、12月3日には撤回し、無料を継続すると発表した。これはあくまでもケータイからのトップサイトの話だが、昨年後半には、筆者が利用していた、いくつかの無料のケータイサイトが閉鎖された。また、課金サイトのいくつかも、閉鎖・縮小されている。やはり、広告の減少、課金ユーザーの減少などが影響しているのだろうか。
昨年、日本上陸したiPhoneでは逆に、産経新聞が朝刊全紙をそのままのレイアウトで無料で読めるアプリを提供して話題となった。アプリの無料配信は「新聞の無料試読制度のようなもの」で、いずれは有料化、新たな広告モデルなども模索するようだが、この春までにさまざまな実験を試みるという。はたしてこのアプリが課金対象となってもユーザーが付いてくるのかどうか。注目したい。
このように、不況などを背景にした広告収入の減少は、ネットサービスを利用するユーザーにも影響を与え始めている。2009年になって、好景気に向かえば分からないが、このままのペースで進んでいくならば、課金、値上げなどといった形で、ユーザー負担が増えていく可能性が出てくる。
「オルタナティブ・ブログ」では、大迫正治氏の「大迫正治 REPEDANT BLOG」に投稿されたmixiの低俗な広告やGREEのアバター課金はSNS広告の低いクリック率の表れに、興味深い指摘がある。ネット広告のクリック率の低さと、SNSにおける低俗な広告に関するものだ。ネット広告を出しても、効果的なクリック、そして購買に結びつかなければ意味がない。しかし、このマッチングがうまくいっていないようなのだ。これは何もSNSに限ったことではないが。
2009年のネットサービスはどこへ向かうのか。課金や値上げによるユーザー負担が増えるのが先か、それとも広告が戻ってくるのが先か。ユーザーが良質なサービスを受けていくためにも、注目していく必要があるのかもしれない。そして、Webサービスを展開する企業にとっても、重要な選択を迫られているといっても過言ではない。
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