大阪府箕面市、Edubuntu採用にみる決意:Trend Insight
大阪府箕面市は、ベンダーロックインを回避しながら中古PCを活用する施策として、「Edubuntu」を用いたシンクライアント環境の導入に着手したことを明らかにした。
大阪府箕面市は10月14日、特定のIT企業の製品に縛られて情報システムが高コストとなる現状を打破するため、「Edubuntu」の導入に着手したことを明らかにした。
今回の箕面市の施策は、いわゆる「スクール・ニューディール構想」と称される政策の中で生じた中古PCに対する扱いである。スクール・ニューディール構想は、文部科学、経済産業、環境の3省が、教育環境の充実と経済活性化、環境対策を狙って実施するもので、要は学校の耐震化・エコ化・ICT化に予算を計上するものだ。民間に発注する事業規模は1兆円超に上り、関連業界では“特需”とも称される政策である。
この政策によって、生徒用のPCを新たに購入した箕面市だが、それまで生徒用に用いてきた500台にも上るPCをどうするかについて議論が交わされた。教職員へのPC割り当てがまだ一人一台となっていない状況もあるため、そちらにスライドして再利用することが検討されたが、これらのPCはWindows 2000 Proが搭載されていたような、いわば“型落ち”のマシン。Windows Vistaやまもなく登場予定のWindows 7を搭載して使うのは一時しのぎにはなっても耐用年数が低すぎる。さらには生徒用のPCとして利用していたときはオフィススイートなどは導入されていなかったため、新規にMicrosoft Officeのライセンスも必要となる。中古PCにそこまでの投資をかけても数年後には使い物にならなくなるのではないかという声が上がった。とはいえ500台ものPCを廃棄しようとしても、そのコストは相当額に上るため、何か手はないかと箕面市は模索していた。
そして箕面市が出した結論は、教育組織向けのUbuntuディストリビューションである「Edubuntu」を採用するという一種の賭けだった。Edubuntuプロジェクトでは、学校全体に対してサービスを提供する取り組みを進めており、Linux Terminal Server Project(LTSP5)のようなターミナルサーバパッケージを用いることでクライアント側のスペックにあまり左右されないシンクライアント環境を手軽に構築できる。オフィススイートもOpenOffice.orgでかなりの部分が代用できると判断、この仕組みを用いて、全市立小中学校20校の職員室LANに、サーバ側が40台、クライアント側が480台というシンクライアント環境を構築する予定。ユーザーの一元管理にはSamba4も検討していたが、まだリリースされていないこともあってActive Directoryを用いている。箕面市では、適切な管理さえ行えれば、ライセンス取得にかかるコストを明確に削減できると考えている。
ただし、この取り組みに障害がないわけではない。事実、プリンタや無線LANのデバイスドライバなどがなくて苦労するケースもあるという。箕面市は単独で実機でテスト環境の構築は成功しているが、今後、こうした課題にともに立ち向かってくれる企業の参加を呼びかけている。
箕面市のようにEdubuntuでシンクライアント、というのはかなり思い切った施策といえるが、自治体や教育分野では、Linuxとオープンソースソフトウェア(OSS)に対する関心は高まり続けている。Microsoftに限らずベンダーのライセンス制度が「ロックイン」をもたらす危険性があることはたびたび指摘されるところだが、先見の明のある管理者たちは、すでに対策を着々と進めている。
こうした取り組みで有名なのは福島県会津若松市のOpenOffice.org導入だが、箕面市でも今回の取り組みに合わせ、全庁のOpenOffice.org導入、OpenDocument Format(ODF)化を進め、ベンダーロックインで高コスト構造になっている情報システムの変革を図るとしている。
学校教育では「落ちこぼれを放置するな(No child left behind)」という言葉があるが、Edubuntuでは、これに似た「ハードウェアを廃棄するな(No hardware left behind)」という言葉がよく用いられる。Edubuntuを活用するケースが今後ほかの自治体でも広がるのかは、先鞭(せんべん)をつけた箕面市が今後ノウハウをどの程度公開するかにもかかっている。会津若松市同様の強い意志を持った取り組みに期待したい。
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