MSの“クラウド元年”を担う開発者が備えるべきこと:Microsoft PDC Day3
PDCは3日間の日程を終え、参加者は帰途についた。今回のテーマはもちろん、Windows Azureに代表されるように「クラウド」だが、Silverlight 4など、見逃すことができない製品やテクノロジーも含まれていた。3日間のPDCで分かったことを通して、2010年代のIT環境を占ってみた。
2010年はMicrosoftにとって“クラウド元年”
何よりもまず言及しておかなければならないのは、2010年1月からサービスが始まるWindows Azureだろう。つまり2010年は、米Microsoftのクラウド元年となる。
クラウドの利点として語り尽くされているが、クラウド環境に移行すれば、オンプレミス(自社環境)と比べて、ハードウェアやOSなどの購入費用、維持費用、バックアップ用のハードウェアやソフトウェアの購入費用、サーバをメンテナンスする人件費などが不要になるため、コスト削減につながる。実際、可用性の向上やディザスタリカバリ環境の構築などをオンプレミスだけでやるとなると、運用者はいつまでも、頭痛のタネから逃れられない。
また、ある種のショッピングサイトなど、サーバリソースの必要性に季節変動がある業務の場合、ピーク時の環境を維持する無駄をなくし、必要に応じてサーバリソースの追加削減を行うことが可能なのも、クラウドの利点だ。
クラウドは、大規模なサーバ環境を必要としている企業だけに必要なわけではない。中堅中小企業にこそ、適当な解決策となるだろう。特に自社内にサーバを運用できる担当者を用意できない場合に、クラウドはとても有効だ。コストをかけて冗長化する必要はないし、サーバがダウンする心配も(それほど)ない。また、必要に応じてシームレスに規模を拡大できるため、中堅中小企業の多くがとるスモールスタート戦略にもマッチする。
Microsoftがクラウド環境を用意し、サーバOSやSQL ServerをSaaS化するのは、顧客であるわれわれにとっても大きなアドバンテージとなる。上記のようなクラウドの利点を受けられるだけでなく、Windowsプラットフォーム上に構築された既存のソフトウェア資産を、低コストでクラウド環境に移行できるからだ。
今回のPDCでは、Windows AzureでJavaアプリケーションを稼働させるとか、PHPやMySQLを稼働させるといった内容も取り上げられていた。これは、Windowsプラットフォーム上のソフトウェア資産だけでなく、ほかの環境のソフトウェア資産でさえ、Windows Azureを使ってクラウドに展開できる可能性を示している。
Silverlightが実現する「スリースクリーン&クラウド」
さて、2日目のキーノートで発表されたSilverlight 4では、待ち望まれていた新機能がたくさん実現されている。
例えば、プリンタ出力がサポートされた。Silverlightアプリケーションから直接プリンタダイアログを開いて印刷できる。また、クリップボード、マウスの右クリックやホイール、ドラッグ&ドロップなどがサポートされたほか、Silverlightアプリケーション内でhtmlをレンダリングできるようになった。Silverlightアプリケーションの中でYouTubeを表示し、再生している動画を含むWebページ全体をジグソーパズルにするというデモも披露された。
特筆すべきは、Silverlightがアプリケーション実行環境としてのサンドボックスとなることだ。現状ではSilverlightアプリケーションはブラウザの中でしか実行できないが、Silverlight 4では、単独のアプリケーションとして実行できるようになる。App-VやWindows 7のXP Modeのようだと思ってもらえればいい(11/24追記:会場では、“ブラウザで実行していたSilverlightアプリケーションを、そのままブラウザ外に取り出せる”というデモがSilverlight4の新機能として紹介された。ブラウザ外で実行するには、専用に書かなければならないという制限が外れたのかもしれない。要は、新たに“ドラッグ&ドロップのターゲットにできるようになった”ということ)。
Silverlightが、かつてはWPF/Anywhereと呼ばれていたことを思い出してほしい。現在、Windowsアプリケーションは、GDIベースのWindowsフォームからWPFへ移行しつつある。Office 2010アプリケーションも、VisualStudio 2010も、今後出てくるMicrosoftの製品はWPFがベースとなる。ということは、これらの製品がSilverlight対応になれば、ローカル環境にインストールすることなく、今までのアプリケーションと同じかそれ以上のエクスペリエンスで実行できるということだ。
Silverlightが対応する環境が、PCだけでなく携帯電話やテレビを含み、スリースクリーン&クラウドが実現するのなら、サーバ側だけでなく、クライアント側もソフトウェアを買うのではなく“借りる感覚で、使った分だけ払う”という形態に移行してもおかしくない。ここからは筆者の予想だが、従来のSaaS形態のリッチアプリケーションが、テレビでも携帯電話でも使えるようになるだろう。より具体的には、WordやExcelがPCとほぼ同じユーザーエクスペリエンスで、テレビや携帯で使えることを想像してもらえばいい。頻繁に使うアプリケーションでなければ、時間課金で使うこともできるだろう。
ハードウェアの違いは、単に環境の違いにしかならない。キーボードが物理的なものかソフトウェアキーボードか、マウスなのかタッチスクリーンなのか、そういう違いであって、画面があって何らかの入力が可能であれば、同じアプリケーションを違いを意識する必要なく、どこでも使えるようになるのではないか。
そして、デバイスの記憶容量を問うことは意味をなさなくなる。すべてクラウド側に情報が保存され、どこにいても必要な情報にアクセスし、参照し、書き換え、保存し、送受信できるのだから。オフィスにいる時は従来通りPCで、家ではTVで、移動中は携帯で、どこにいても同じアプリケーションを使用して、情報の参照や加工が可能となる。
VisualStudioが実現する近未来像
こうした近未来を実現するのに必要となるのがVisualStudioだ。MicrosoftがEcripseのWindows Azure対応に協力していることを考えれば、今後、Windows AzureやSilverlightに対応した開発環境が増えてくるのは必然だろうが、現状ではVisualStudioがベストな開発環境だ。
実際には、既に述べたような未来予想図を実現するには、乗り越えるべきハードルが幾つもあるだろうが、実際に目にするのは、それほど遠い未来ではないだろう。2010年には、大幅に機能強化されたVisualStudio 2010が.NET Framework 4とともに完成し、その足掛かりができるからだ。
今のうちにソフトウェア技術者ができることは、将来にわたって通用する.NET Frameworkを正しく理解し、WPFやWCF、Sync Frameworkといった、Windows AzureやSilverlightの根底にある技術に親しむことだ。WPFはSilverlightの基本技術であり、WCFやSync Frameworkなしにソフトウェア間の通信、つまりクライアントとクラウドのコラボレーションを語れないからだ。
2010年の2月23日、24日には、今回のPDCの日本開催版といえるTech・Daysが開催される。次世代を担う開発者には待ち遠しいイベントになるハズだ。
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