ITインフラのプロとして――情シスによる経営改善、きっかけは“クラウドでコスト削減”だった:導入事例
制御商社であるエフ・エー・テクノの情報システム課は、「カスタマイズ不要の汎用アプリは極力クラウドで」という方針のもと、コスト削減を成し遂げた。そのコストをITインフラのサービスレベル改善に投入し、良いサイクルが回り始めたという。
昨年、ITmediaエンタープライズ編集部と調査会社のITRが合同で行った読者調査において、「クラウドコンピューティングの利点」として挙げられた最大の要素は「自社で資産を持つ必要がない」であった。一般にクラウドコンピューティングに関心を持つ(国内)企業の多くは、導入/開発コストはもとより、運用フェーズに入ってからの負荷や人件費のセーブを念頭に置いているといえよう。つまり、クラウド化すれば「コスト削減」できるのでは? という期待だ。
ただし、行き過ぎたコスト削減の議論は、極端な「情シス不要論」にもつながりかねない。自社でIT資産を所有せず、運用もせず、ただ利用するだけならば、ITインフラを管理する部門など不要だ、ということになるからだ。
東京は秋葉原の地に本社を置くエフ・エー・テクノは、メーカーがその製造ラインで利用する各種電子部品・電子機器の販売・製造を手掛ける“制御商社”である(社名もFactory Automationに由来する)。170人以上の従業員を有する同社のITインフラを支える、経営企画部 情報システム課の冨本眞美 課長は、「情シスは日々の運用に追われるだけでなく、“ITインフラのプロ”としての視点から、経営改善につながる提案をすべき」と話す。
グループの内部統制ポリシーに対応するために
エフ・エー・テクノにとって、現在につながるITインフラの整備は、2004年にさかのぼる。その年、同社を存続会社とする吸収合併が行われ、ネットワークの統合と整備が必要だったからだ。
情報システム課の竹本晃 氏は「合併の前から、統合後のネットワークをどうするか? について議論を重ねてきました」と振り返る。同社は(物流拠点を含め)都内に複数個所の事業所を持ち、また神奈川、埼玉、新潟にも営業所を構える。もちろん各拠点に専任の管理者がいるわけではないし、竹本氏ら情報システム課は、インフラの整備だけではなく、日々のヘルプデスク業務もこなさなければならない。
なるべくネットワーク周りの運用負荷を減らすという観点から、回線は多拠点を一元管理できるインターネットVPN(bit-driveのVPNソリューションパック)を選択。併せてメールサーバやゲートウェイサーバといった機能は、独自に構築するのではなく、あらかじめそれらの機能が組み込まれたオールインワン型のサーバ(bit-driveのネットワークサーバパック)を調達した。
ネットワークの体制については、一応の解決を見たエフ・エー・テクノだが、並行して新たな課題も生じていた。内部統制への対応だ。
オムロンの100%子会社でもあるエフ・エー・テクノには、オムロングループのIT統制ポリシーに準拠することが求められていた。それには、包括的なウイルス/スパムチェックはもちろんのこと、ログ管理やWebフィルタリングを備えねばならない。「(内部統制)体制の確立は、相当の圧力で要求されていました」と振り返る冨本氏だが、同時に、そこに多大なコストを掛けたり、ヒューマンリソースを費やしたりするわけにはいかないことも、認識していたという。
(情シスに対する)要求はあるけれど、(どうすればよいかについての)提案は期待できない――手段を探っていた冨本氏は、折しも2008年末にbit-driveが新サービス「マネージドイントラネット」をロウンチすると知り、その検討を開始した。
削減コストを、サービスレベル向上につなげる
マネージドイントラネットは、ITインフラを運用するに当たり必要とされる各種サーバ機能およびアプリケーションをbit-driveのデータセンターにホスティングし、アクセス自体はインターネットVPNで行う、プライベートクラウド型のサービスだ。“自社に所有しない”というクラウドの利点を取りつつ、アクセスはVPN経由(事実上、セキュアなイントラネットと同様)にすることで、データ配置の安全性も担保されている。
拠点間のトラフィックがうまく負荷分散されるかなど検証を重ね、2009年の8月から本番稼働。その後、トラブルなく運用されているという。
冨本氏は、ITインフラを構築する上でのポリシーとして、「作りこむ必要の無い汎用的なアプリケーションは、なるべく所有せずクラウドへ」という考えを持つ。このポリシーに従い、メールサーバをはじめとする一般的な機能(アプリケーション)は、bit-driveが用意するクラウド型のサービスを利用することにした。
もちろんエフ・エー・テクノは、業務に最適化するためカスタマイズした各種アプリケーションも有する。これらはクラウド型のサービスで代替するわけにはいかない。だがそれらも、VMwareで仮想化したサーバ上に各種業務アプリケーションを展開し、それをデータセンターにハウジングすることで、“なるべく所有しない”という原則が貫かれている(仮想化せずハウジングしていたころと比較し、ラックを2基から1基に集約できたという)。
「マネージドイントラネットの基本アプリケーションである“マネージメントツール”のおかげで、リモートでのルータ再起動や、パッチ当ての自動化などができました」と、竹本氏は運用負荷の軽減効果を評価する。また回線の見直しにより、ネットワークのスループットも大きく改善したという。「負荷分散がうまくいっているのでしょう」(竹本氏)
エフ・エー・テクノでは、bit-driveのリモートアクセスサービスである「CRYP(FeliCaによる認証で、セキュアにリモートアクセスをする方式)」も利用している。だがそれは、一般に想定されるような、営業スタッフに支給しモバイルワークさせるといった使い方ではない。冨本氏は「リスクマネジメントという観点から、経営幹部や、われわれ情報システム課のスタッフが利用しています。IT基盤の障害時に迅速な対応ができなかったり、災害やパンデミックの発生時に経営判断がストップしてしまったりしては、いけませんから」と話す。
冨本氏によると、これらのサービスレベル向上を果たしながら、マネージドイントラネット導入前の環境と比較して回線費用を月額約15%、ハウジング費用は月額約35%削減できたという。「年間で約800万円の削減を見込んでいます。これらは情シスが生んだ“純利益”といえるものです」(冨本氏)
だが冨本氏の構想は、「コストを削減できて、良かった」というだけの段階には、留まっていないようだ。冒頭述べたとおり、情シスはITのプロとして経営改善を提案すべき、という考えを持つ冨本氏は、直近の課題として、IT資産管理システムの導入を検討しているという。
「資産管理も汎用的なアプリケーション。つまり、クラウド型のサービスを利用した方が、効率が良いということ。幸い、bit-driveがIT資産管理の提供を予定しているので、その採用を前提に、検討しています」と冨本氏は話す。
「削減したコストで、ITインフラのサービスレベルを向上させる。クラウド型のサービスを利用すれば、情シスにとって良いサイクルを回せるのです」(冨本氏)
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