企業の仮想化最前線 普及度合いと効果は? 現場の悩みは?:実践! 仮想化――ビジネスに効く、真の仮想化とは(3/3 ページ)
物理サーバ台数の削減など、ITコストの抑制に効果があるとして注目を集めてきた仮想化技術。しかし実際にはどのくらい普及し、どの程度の効果があがっているのだろうか。仮想化市場の現状に精通している日本仮想化技術株式会社の宮原徹氏と、日立製作所の稲場淳二氏が仮想化市場の最前線について語り合った。
検討中のユーザーが考えていること
宮原氏 お話を聞きながら思い浮かんだのは、これから導入しようとしているユーザーが聞きたがっていることは、仮想化環境を導入したユーザーのバッドノウハウと、それを解消するためのノウハウです。その原因は、どんな問題が起こるか分からない、という未知への不安ですね。
具体的には、障害発生時の切り分け方法や、仮想マシンが増えていったときの性能劣化への対処方法を知りたいユーザーが多いようです。あとは停止ですね。業務を停めずにストレージを追加できるのか、構成変更にはどのくらい停止が必要なのかなどです。
稲場氏 プラットフォーム系で多い質問は、バックアップの話です。バッドノウハウを知りたいというのも含めて、非仮想環境から仮想環境に移行したとき、同じような運用ができるのか、同じことができるとして影響の有無はどの程度か、といった点ですね。
ほかにも、部門ごとに管理していたことを仮想化で統合したことで、情報システム部では担当していなかった運用まで担当する必要が発生することなども含めて、バックアップやリストアといった情報システムの生命線まで担うのは胃の痛くなる仕事ですから。
宮原氏 そうしたことを含めて運用管理ツールの必要性を感じます。多くの現場が抱えているのは、いろいろなシステムが散らかっていて全体像が把握できない、という問題です。そのため既存システムを棚卸ししたいという気持ちが現場の技術者の間では強いのではないでしょうか。その中で、統合基盤を作りたい、運用管理ツールを導入したい、拡張したいといった相談が増えています。それに仮想環境に携わる技術者の難しさは何かというと、ネットワーク、ストレージ、アプリケーション、ミドルウェアなどハードウェアからソフトウェアまですべてを垂直に理解している必要性があるということです。
稲場氏 その通りだと思います。システムコンサルタントにとどまらず、もっと広い観点で仮想化の活用を提案できないと、システムの移行を顧客が実行するまでに至らないのです。
宮原氏 弊社も分析のときはABC分類でグループ化して、グループごとでの標準化をする、というやりかたを提案しています。
先進的なユーザーが直面している課題
宮原氏 最近の仮想化を活用しているユーザーの悩みはVMの増殖ですね。従来では1Uラックのマシンがどんどん増えたことによるラック不足や電気容量の悩みが多かったのですが、仮想化によって生じた現場の悩みは、仮想マシンの増加による論理的な混乱です。
運用ノウハウを持っているユーザーの多くはITILをベースにした構成管理などを行っていますが、そうでないユーザーもまだまだ多い。仮想化は利便性をすぐに実感できますが、ついVMを追加し過ぎてしまうのです。
稲場氏 そのため弊社も物理環境と仮想環境を一元的に「見える化」するツールを提供しています。論理と物理で別々の管理ツールを使っていては、とても100台のVMと物理マシンをマッチングできません。先日もある現場で「昔はサーバごとに付箋紙を貼って管理していましたが、VMに付箋紙を貼ることはできないので管理に困っています」という話を聞きました(笑)。
宮原氏 ただでさえ資産管理表はなかなかアップデートされない問題もありますね(笑)。
稲場氏 そのため仮想環境と物理環境は一元管理されなければいけない。増減する構成をエージェントレスでモニタリングして自動的に追跡できないといけない。
宮原氏 仮想化導入の次のステップを見据えているユーザーは、「自動化」を視野に入れていますね。台帳を作るような原始的な手動管理から脱却して、インベントリツールを活用して、ボトムの作業を自動化していくことが必要です。そのほか、よく挙げられるテーマはセキュリティ。セキュリティを高めるには構成管理が求められます。いかに自動化するかが、仮想化導入後の課題になると思われます。10台程度ならまだしも、VMの台数が100台となると、いかにツールを活用して管理するかが重要です。
稲場氏 もはや人間の手と記憶だけでは管理できなくなります。「リソース管理や構成管理といった監視系はツールで解決したい」「部署コードなどの実環境との関連情報もツールで一元的に管理したい」という要望が多いです。
宮原氏 そういう意味では、サービスオリエンテッドの考えに近づいていくことが必要だと思います。仮想化は手段なのですから。先進的なユーザーではIT部門がコストセンターからプロフィット(利益)センターへと転換しつつありますが、これが成功している企業は「攻めの投資」ができていると言えます。そういえば日立さんの製品では「リソース予約」という発想が興味深いです。
稲場氏 予約は日本企業的な発想ではありますが(笑)。要求のあったリソースを、期間や要件に応じて、どこから割り当てるか。企業のインフラは必ずしも画一的ではありませんから、最適な運用のために、リソース予約は大事な考えだと思います。
宮原氏 フォーキャストを立てるということですね。今後の方向性としては、サイロ化した結果、バラバラになってしまったサービスレベルを、どのようにして整理・統合していくのか。仮想化という手段をどのように活用していくのか、そして運用の自動化、インフラの省力化といったところがテーマになってくると思います。
ツールでもハードウェアの監視、ネットワークの監視なども一元化できるツール、その事例が求められていると思います。日立のツールの活用事例が出てくることを期待しています。
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