加熱するクラウド市場と冷静なユーザーマインド:アナリストの視点(2/2 ページ)
クラウドコンピューティングをキーワードにしたITベンダーのマーケティング活動が活発だ。だがITベンダーとサービスを活用する企業の間には温度差がある。企業はクラウドという発言の内容を冷静に判断しようとしているのだ。クラウドという言葉を活用するITベンダーは、改めて「顧客視点」を見直すべきである。
クラウドコンピューティングの意識
次に、クラウドコンピューティングに対する企業の印象や評価を判断するため、「魅力」「現実性」「価値」「トレンド」「革新性」という5つの評価分類を設け、それぞれ2通りの選択肢について当てはまるものを聞いた。結果からは以下の傾向が見られた(図2)。
- クラウドコンピューティングの「現実性」という観点では、「実態がない/よく分からない」が51.4%、「定義があいまい」が71.0%となり、逆の意見を上回った。
- 「魅力」については、「魅力的な仕組みである」とする回答が6割近くに達した。大半の企業が前向きな印象を持っていることが分かる。
- 「トレンド」では、「ベンダーによって言うことが違う」が63.1%となり、ITベンダーに対する不信感ともとれる結果が示された。一方で「新しいトレンドとなっている」「これからのITの主流となっていく」という回答も6割前後に達した。クラウドコンピューティングの発展性や普及については、前向きな意見が多かった。
- 「価値」については、「ベンダーのマーケティング用語にすぎない」とする回答割合は、同選択肢の対となる「ユーザーにとって価値のあるものである」と同程度だった。一方、「利用価値がある」とする回答は7割を超えた。
- 「革新性」の点では意見が二分され、特に顕著な傾向はみられなかった。半数近くの企業は、クラウドコンピューティングの技術および仕組みを冷静に見極めている様子が見えてくる。
これらの結果から、企業はクラウドコンピューティングという用語に不明確な点があると感じつつも、その価値には一定の評価を下しているといえる。一方で、ITベンダーのマーケティングには振り回されたくないという意識も垣間見え、市場の盛り上がりを冷静な目で見ているといった状況がうかがえる。
改めて見直されるべき「顧客視点」
国内の景気は回復基調にある。だが、欧州の金融情勢や円高の進行といった不安材料も多く、経済情勢の先行きは不透明だ。不確実性が高まる現代の経済情勢において、企業には変化に迅速かつ柔軟に対応する能力が求められている。そのためには、事業を支えるインフラとして重要な役割を担う情報システムにも、柔軟性や迅速性が必要となる。
クラウドコンピューティングのメリットは、サービスインまでのリードタイムの短さや初期コストの低さである。激しい変化に直面している企業にとって、クラウドの利用価値は高いと考えられる。だが、あらゆる企業のIT基盤がクラウドに向くとは限らない。クラウドの利用には、ITサービスの用途や周辺領域のシステムとの連携性、取り扱う情報の機密性などの視点から検討を重ねなければならないからだ。
こうした状況下では、ITベンダーの一方的な「クラウドコンピューティングありきのアプローチ」では、企業からの信頼を獲得できない。クラウドコンピューティングは、それぞれの企業の事業において、ITがどのような位置付けにあるべきかといったビジネスとのつながりを意識した視点で語られることが望ましい。
関連記事
- クラウドコンピューティングは企業にどう理解されているか
クロス・マーケティングの調査によると、クラウドコンピューティングに対する企業の関心度の高さは、企業規模と比例関係にあることが分かった。現在クラウドサービスを利用している企業は全体の1割に満たなかったが、今後は利用の機運が高まっていく傾向がみられた。 - 賢者の意志決定:クラウドはどのように進化していくのか?(前編)
クラウドという流行のテクノロジーの議論に終始していては、クラウドの本質をつかむことはできない。本稿では、日立ソフトが提供する「セキュアオンライン」の事業責任者であり主席アーキテクトである中村輝雄氏が、クラウドのこれまでとこれからを事例を交えながら語り尽くす。 - アナリストの視点:「本当のクラウド」とは何か
クラウドコンピューティングはIT業界で脚光を浴びている成長分野だ。本格的な成長と普及を目前にした今、再び立ち止まって「クラウド」を考察したい。 - アナリストの視点:クラウド普及のカギ
クラウド市場の成長をけん引しているのはSaaSだ。だが今後は、PaaSやIaaSの分野で大きな成長が見込まれる。本稿ではクラウド市場の普及の鍵を握るSaaS、PaaS、IaaSについて、現状の課題を考察する。 - ITmedia リサーチインタラクティブ 第1回調査:クラウドの真相
ITmedia エンタープライズとITRは「クラウドコンピューティング」関連の読者調査を7月に実施した。クラウドの認知度は9割を超え、実際の活用も進みつつある。その反面、セキュリティやサービスレベルに対する懸念は根強い。企業ユーザーが考えるクラウドの今をお伝えする。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.