「立場を利用した命令では人は動かない」 協和発酵キリン・松田社長:リーダーシップと実現力(3/3 ページ)
研究者としてサラリーマン人生を全うするはずだった――。入社以来、医薬研究に明け暮れていた協和発酵キリン・松田譲社長は54歳にして経営企画室に異動となる。しかし、そうしたさまざまな経験が、後に2社の経営統合を進める上で大きな糧となったのだ。
何よりも社員の意思を尊重
総合企画室に異動した翌年、松田氏は協和発酵の社長に就任する。その後、キリンファーマーとの経営統合を経て、2008年には協和発酵キリン社長の座に就く。
企業合併に際しては、異なる歴史や文化を持つ両社の社員の心を1つにするために、新会社の理念やビジョンについて社員自らが話し合える場を作った。結果的に、1000人を超える社員が自発的に参加した。そうして生まれたのが「「私たちの志」という同社の核となる理念である。「私たちの志」は、多くの社員から喝采を浴び、両社融合の要となった。社員一人一人の意思を尊重したプロセス作りが可能となったのも「とことん社員と向き合う」という松田氏ならではの行動指針によるところが大きい。
融合や交わりという点においては、経営者としての松田氏の信条にも由来する。組織を作る際、あえて身の回りに自分と異なる考えを持つ人や反抗的な人などを配置した。異質なものを混ぜることが重要だと松田氏は考えるのである。植物の世界においては、1種類の木だけを植えて作った森よりも、いろいろな木々が混植している森の方が強くたくましくなるのだが、企業の組織においても同じだと松田氏は強調する。また、自分に対峙する人物を置くことで、社長が“裸の王様”になって会社全体が間違った方向へ進むような事態を防ぐことができるという。
経営のかじ取りをする上で、人事の公平性も信条に掲げている。例えば、ある社員が昇格したときに「社長の部下だったから昇進した」などという風聞が出てこないように、松田氏は同期やかつての部下、同じチームで仕事をした社員とは一切飲食を共にしない。その徹底ぶりは目を見張るものがある。
「人事に限らずあらゆる物事において公私の区別をつける。すべての身のこなし方がそこに基づいてないと、絶対的なリーダーシップは築けない」(松田氏)
若者よ、外へ出ろ
研究者から経営者に転じ、今なおリーダーとして第一線で奮闘する松田氏。氏がこれまで歩んできた道のり、そこで取ってきた行動は、企業におけるリーダーシップを考える上でさまざまな要素が詰まっている。
しかし、企業を取り巻くビジネス環境は目まぐるしく変化しており、これまで培った経験やノウハウが未来永劫、引き続き通用するとは限らない。人々の価値観も大きく変わっている。今後、企業では時代を切り開く新しいリーダーが求められてくる。
次世代リーダーの条件について、松田氏は「グローバル人材」であることを挙げる。松田氏の言うグローバル人材とは、多様性を受け入れるということ、すなわちダイバーシティの考えを持つとともに、どんな苦境にも耐えられる、打たれ強い人材を指す。そのためには、積極的に海外に出てさまざまな経験を積むことが何よりも重要だという。
「若者にはもっと海外に目を向けてもらいたい」。松田氏は次の時代を担うリーダーに対して力強いエールを送った。
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