【第1回】経営戦略とIT:中堅・中小企業 逆境時の経営力(3/3 ページ)
新連載「中堅・中小企業 逆境時の経営力」では、グローバル展開、組織論、IT戦略など、さまざまな切り口から中堅・中小企業の進むべき道を模索していく。
企業における3つのIT
企業のIT環境は、次の3種類に整理して管理する必要がある。
(1)戦略的IT
(2)業務的IT
(3)基盤的IT
戦略的ITとは、他社に対して競争優位性を発揮できる業務や意思決定のプロセス(コア業務プロセス)をサポートするIT環境を指す。競争優位性を発揮するためには、ITにおいても他社とは異なる独自性が必要となる。つまり、業界標準的なIT環境では満足できず自社独自のニーズによる作り込みを行うことになる。
環境の変化に対して、迅速かつ柔軟に対応できるようなIT環境にする必要があるため、新技術の積極的な導入や対応する組織体制(内製化、アウトソーシング化等)も機動力を重視して検討する必要がある。
業務的ITとは、モノ、カネの動きに追随する事務オペレーションを中心とした業務(ノンコア業務)を正確かつ効率的に行うためのIT環境を指す。他社と差別化する要素は比較的少ないため、パッケージソフトウェアなどに自社業務を適合させつつ、IT投資コスト負担の軽減に努めることが有効である。一般的には、経理・会計や人事給与計算システムなどを指すことが多い。
基盤的ITとは、戦略的ITや業務的ITを支えるために必要なIT環境である。一般的には一人一台のPCやネットワーク、メールをはじめとするグループウェアなどを指す。これらは、利用状況を把握して必要十分な環境を維持することを主目的とし、コスト負担の軽減に努める必要がある。
このようにIT戦略を立案する場合は、対象環境の種別を理解し、その特性に応じた検討、評価を行わないと正しい意思決定はできない。
CIOではなくCOOを
ITが広く企業に浸透するにつれて、ITは電気などと同様、当たり前のように用いられ、競争優位性を築く源泉にはなり得ないという意見もある。しかし、前述したように自社のビジネスモデルとITとの関係の深さによって見方は異なる。
自社のビジネスモデルにおいて、ITの依存度が高い場合は、IT戦略は経営課題であるが、低い場合はオフィスワークの設備投資と考えて、経営における必要性は薄い。そのため、すべての経営者がITに対する深い理解が必要というわけではない。
人的資源に制約がある中堅・中小企業では、IT知識が求められるCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)を専任で据えるよりも、ビジネスモデルや業務プロセスを統括的に管理する立場のCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)をIT戦略立案の責任者に選定すべきである。
COOの役割の1つは、情報システム部員から技術的なサポートを受け、新たな技術革新が自社の業務に役立つ内容かを見極めた上で、事業を執行する立場から経営陣に対してITの必要性を説明し、適切に理解してもらうことである。
情報システム部門が発表するIT戦略のプレゼンテーションは、どうしても技術的側面が先行したストーリーになりがちだ。筆者が実際にコンサルタントの立場で、経営陣にIT戦略のプレゼンテーションを行う場合は、技術の話ではなく、ビジネスの話であることを理解してもらうよう心掛けている。この際、技術的な専門用語は極力省略し、ビジネスのどの部分に役立つITなのかを強調することを意識している。
ITとは、使い方次第で、業務効率の飛躍的な向上、新たなビジネスモデルへの対応を実現するための重要な鍵になることもあれば、単なるコストの塊となることもある。経営を行う上で最も重要な情報は何か、それをどのようにマネジメントすれば事業が発展するかを見極める目がなければ、ITを経営に役立てることは不可能に近い。
流行のテクノロジーやソリューションに惑わされることなく、IT戦略の土台としてビジネスモデルの分析を行い、情報資源の生かし方をじっくりと検討することを強く推奨したい。
著者プロフィール 木村典宏(きむら・のりひろ)
株式会社日本総合研究所
総合研究部門 社会・産業デザイン事業部 ICTサービスイノベーショングループ シニアマネジャー
富士通株式会社でシステムエンジニアとして業務に従事。さくら総合研究所を経て、現在、日本総合研究所にて、民間企業や公共団体に対して、業務改革およびIT分野全般の各種コンサルティングに従事。
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