「ない」から「ある」への変化―震災をチャレンジに:こころの処方箋(2/2 ページ)
ネガティブな体験は、時間が経過するとポジティブな体験に変わる。そして、どんな困難もチャレンジに変え明日へとつなげるチカラを、私たち日本人は持っている――疲れたこころを優しく癒す処方箋、最終回は震災を乗り越え未来を作っていく皆さんへの応援メッセージをお届けします。
少しずつ良い方向へ動かし、続けること
とはいえ、いくらリソースが「ある」と気がついても、「やっぱり、先行きが見えずに不安」と思う方もたくさんいらっしゃると思います。課題解決の長期化が予想される中で、不安に思うのも当然です。だからといって、「不安に思わないようにしよう」と思えば思うほど、不安になりますよね。
先行きが見えないときの不安を解消し、先行きを見えるようにするための良い方法は、目の前のできることを、少しずついい方向に動かし始めること。そして、それを続けることだと思います。続けることで、少しずつ前進感や達成感、成長感が生まれますし、見えなかった先行きが少しずつ見えてくるからです。
私の体験をお話します。私は今、事業を行っていますが、将来の安定や保証などは何もありません。先行きが見えない不安や、収入を失う不安に、以前は押しつぶされそうになることがよくありました。でもあるときから、「あ〜、もうだめかも」と思うときほど、目の前にある自分ができる小さなことを、いい方向へ動かし続けるようにしてきました。もちろん、すぐに思い通りになるわけではありませんでしたが、少しずつ動かし続けることで、前に進んでいる感じが出てきます。前に進む感じが出てくると、新たなやる気や目標にもつながってきました。この継続が、結果的に成果にもつながってきました。
こうして、「不安定な環境」を「安定したこころ」で歩いていけるようになりました。
今、目の前にたくさんのがれきがあり、途方に暮れているという方がたくさんいらっしゃると思います。中には、物理的な瓦礫はなくとも、仕事の見通しが立っていない、心の中がさまざまな思いが散らかっているなど、心のがれきで覆われているという方もいらっしゃるかもしれません。先が見えないほど、不安になりますよね。その気持ち、分かります。
先行きが見えず、不安なときほど、今、できることをやってみてください。大丈夫! 近い将来、未来は必ず見えてきます。
今回の震災で、日本人のこころが多くの疲れやストレスを感じました。この「こころの処方箋」は、このような非常時に、ビジネスパーソンがどのように自分のこころをマネジメントし、周囲と関わり、組織を方向付けていったらよいのかというテーマでお送りしてきました。
震災が起こる前から、近ごろの日本社会はとても不安定な状況でした。そして、震災が起きた今、「安定って、一体何なのだろう」とあらためて考えます。これまでの安定と言えば、大きな会社で働くことや、お金や物質的な余裕を持っておくことという考えもありました。それらも安定に必要な要素に間違いはありません。けれども、お金やモノを一瞬にして失う現実を目の当たりにしている今、ひょっとしたら、不安定な社会を安定したこころで歩むことが、最大の安定と言えるのかもしれません。
今回起こったのは、確かに未曾有の大震災でした。けれども、ここから立ち上がっていく私たちは、「大きな震災」を「大きなチャレンジ」という認識に変えていきたいと思うのです。これからもさまざまな課題が続くかもしれません。新たな課題が出てくるかもしれません。けれども、私たちは行くしかありません。これまでもさまざまな難局を乗り越えてきたように、新たなチャレンジを始めるチカラが、私たちにはあります。
「こころの処方箋」は今回が最終回です。ご覧いただきましてありがとうございました。皆さまが安定したこころで「大きなチャレンジ」に挑む、何かしらのヒントになりましたら幸いです。
著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)
特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。心理学トレーナー(米国NLP協会認定NLPトレーナー)
自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分が辛かった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場が作れるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、仕事で疲れたこころを充電し、仕事のスキルアップや成長感得られる体験を通じて「しごとを楽しくする」NPO法人を設立。コーチングやカウンセリング、チーム作りの指導を行っている。
著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。
Twitterのアカウントは「@takewave」。
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