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SaaSとPaaSで違いを見せたマイクロソフトのパートナー戦略Weekly Memo

マイクロソフトが先週、世界40カ国・地域で「Office 365」の提供を開始した。同社にとってはSaaS事業の主力商品だが、そのパートナー戦略はPaaS事業と異なるようだ。

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マイクロソフトがOffice 365の卸販売を開始

 日本マイクロソフトが6月29日、企業向けパブリック・クラウドサービス「Office 365」を同日より提供を開始すると発表した。

 世界40カ国・地域でほぼ同時に提供開始されたOffice 365は、マイクロソフトがかねて展開してきたクラウドサービス「BPOS(Business Productivity Online Suite)」と、オフィスアプリケーションとして圧倒的なシェアを占める「Office」を組み合わせたもので、まさしく同社のSaaS事業における主力商品となる。

 Office 365の機能や特徴、料金体系についてはすでに報道されているので関連記事などを参照いただくとして、ここではパートナー戦略に注目したい。

 マイクロソフトはOffice 365の提供開始とともに、パートナー戦略として新たにシンジケーションパートナー制度を導入した。シンジケーションパートナーになれば、自社の強みを生かした付加価値サービスを組み合わせたワンストップ・クラウドサービスを展開できる。マイクロソフトからOffice 365のサービスを仕入れて、自社の他のクラウドサービスやサポートサービスと組み合わせ、自社ブランドのサービスとして販売できるようになるという。

 ユーザー企業にとっては、マイクロソフトのシンジケーションパートナーである各ベンダーが提供する付加価値サービスを比較して選べるようになる。しかも提供元ベンダーと取り引きがある場合は、請求書払いなど既存の支払い手段をそのまま利用できるようになるのがミソだ。

 ちなみに、マイクロソフトからOffice 365のサービスを直接利用すれば、支払いは同社のWebサイトを通じたクレジット決済などに限られる。それを提供元ベンダーとの取り引きに一元化できるわけである。

 日本ではこのシンジケートパートナーに、NTTコミュニケーションズ、大塚商会、リコージャパンの3社が名を連ねた。日本マイクロソフトとしてはこの3社と協業を深めることにより、とりわけ中堅・中小企業に向けてOffice 365を浸透させていこうというのが大きな狙いだ。

クラウドサービスのエコシステムの鍵を握るOffice 365

 同日行われた記者会見には3社の代表者も相次いで登壇し、それぞれのサービス展開について説明した。それを聞く限りにおいては、3社とも実績のある自社のサービスにOffice 365を組み入れた形で、それぞれの特色を前面に出しているようだ。

 ただ、会見でマイクロソフトおよびシンジケーションパートナー3社の説明を聞いているうちに、疑問が1つ浮かび上がった。それは、Office 365を動かすのはマイクロソフトのデータセンターだけなのか、それとも3社のデータセンターでも動かすのか、だ。

 なぜ、それが気になるかといえば、ユーザー企業から見れば、自社の大事なデータの所在が明確になっているかどうかに関わるからだ。

 そこで会見終了後、日本マイクロソフトの広報に確認してみたところ、「Office 365については基本的にマイクロソフトのデータセンターからサービスを提供する」とのこと。つまり、シンジケーションパートナーは、あくまでOffice 365のサービスを仕入れる形となる。

 ここでまた、新たな疑問が浮かび上がってきた。マイクロソフトは、PaaS事業である「Windows Azure Platform」については富士通や米Hewlett-Packard(HP)、米Dellと戦略提携を結び、3社のデータセンターからWindows Azure Platformを活用したクラウドサービスを提供できるようにした。

 PaaSもSaaSもパブリック・クラウドサービスであり、サービスレベルやセキュリティレベルにおける条件は同じだ。しかし、マイクロソフトは、PaaSは運営そのものを委託する一方、SaaSについては卸販売までにとどめた。もちろん、その根本には、開発プラットフォームとアプリケーションの違いがあるだろう。

 とりわけ、Office 365はこれから急速に普及していく可能性が高いだけに、マイクロソフトとしては万全の態勢で臨まなくてはならない。だがOffice 365のポテンシャルの大きさを考えると、未来永劫、マイクロソフトのデータセンターからサービスを提供し続けられるのかどうか……。

 そうしたキャパシティの問題もさることながら、やはりどうしてもユーザー視点でのデータの所在が気にかかる。加えて、料金体系との兼ね合いもあるが、クラウドサービスの流通網といっても、結局はデータセンターを動かしているサービスプロバイダーだけが儲かり、仲介業者は淘汰されていくのではないか。そう考えると、マイクロソフトが今後Office 365のサービスをどう展開していくか、パートナー戦略としても注目されるところだ。

 今年4月にパブリックベータ日本語版が提供開始されたときにも本コラムで書いたが、Office 365はマイクロソフトの戦略サービスというだけでなく、企業向けクラウドサービスのさらなる普及を占う重要な指標になり得るだろう。同時に、クラウドサービスのエコシステムがきちんと成り立つかどうかも、Office 365が大きな鍵を握っているといえそうだ。


Office 365の記者会見。左から日本マイクロソフト業務執行役員のロアン・カン氏、米マイクロソフト コーポレートバイスプレジデントの沼本健氏、NTTコミュニケーションズ理事の田中基夫氏、大塚商会 取締役兼専務執行役員の片倉一幸氏、リコージャパン専務執行役員の窪田大介氏、日本マイクロソフト執行役常務のバートランド・ローネー氏

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