いかにヒット商品が生まれたのか――ファミコンとその時代:若きリーダーが読んでおきたい1冊
全世界で6100万台以上も販売されたファミコン。開発責任者だった著者らがその歴史を語る。
今年7月15日、任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」は発売30周年を迎えた。日本だけで1935万台、全世界で6191万台という累計販売台数を誇るこのファミコンとは、一体何であったのか。
本書は、デジタルゲーム産業の歴史をひも解くことによって、ファミコンが誕生した背景や消費者に大普及した要因、付加価値の高いビジネスモデル、社会にもたらした影響などを丁寧に解説している。著者の一人である上村雅之氏は、任天堂でファミコンの開発責任者を務めていたため、内部資料や証言などを基に、詳細かつ具体的な製品開発エピソードをうかがい知ることができる。
ファミコンが世に生み出される以前、任天堂は1980年に携帯型液晶ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」を発売し、同社において空前の大ヒット商品となっていた。その後を追うようにゲームメーカー各社がこぞって電子ゲーム機(LSIゲーム機)を販売、玩具市場を賑わせたものの、わずか数年でブームは下火になった。その原因として、当時のLSIゲーム機のシステム技術では、もはや多くの人々を夢中にさせる新しい遊びが開発できなくなったほか、ゲームセンターを中心としたコイン式ビデオゲームの台頭があったという。
そうした中、任天堂では、コイン式ビデオゲームで体現している質の高いコンテンツを、自宅のテレビでも見劣りなく遊べるような新しいテレビゲーム機を開発テーマに掲げていた。こうして誕生したのがファミコンである。
しかしながら、ファミコンは決して順調な船出だったわけではない。コントローラの不具合や表示用LSIの発熱問題など、さまざまなトラブルに見舞われる。それに対し、開発者をはじめとする任天堂側の粘り強い対応のほか、子どもたちを中心としたファミコンユーザーの使用上の工夫や販売店の協力などがあって、徐々に事態は収束していったという。
一方で、サードパーティーであるゲームソフトメーカーとの連携によって、ゲームのヒットとともに、そのプラットフォームであるファミコンも売り上げを伸ばし、巨大なテレビゲームマーケットを作り出したのである。
ファミコン成功の陰には、開発者の情熱と顧客に対する真摯な姿勢は然ることながら、ユーザーやパートナーといったステークホルダーの力も多分に関係していたことは見逃せないだろう。
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