IT予算減、それでもイノベーション続けるP&GやWalgreens:Oracle OpenWorld San Francisco 2014 Report
Oracleがサンフランシスコで年次カンファレンスを開催中だ。2日目早朝のキーノートに登場したマーク・ハードCEOは、世界最大の消費財メーカーや全米大手の薬局チェーンなど8社のCIOの取り組みを紹介した。
厳しい任務にあたるCIOたち
米Oracleがカリフォルニア州サンフランシスコで開催中の年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2014」は9月29日(現地時間)、2日目を迎えた。曇り空の肌寒い朝となり、会場であるモスコーニセンターへ足早に向かう参加者でダウンタウンは一杯だ。
彼らのお目当ては、早朝のキーノートに登壇するマーク・ハード新CEOだ。講演が始まるや否や、ステージを降りて聴衆と同じ目線で語りかけるスタイルは、もはやOpenWorldではおなじみになった。ハード氏は冒頭、ソーシャルメディア、モバイル、クラウドといった新しいトレンドが世の中に大きな変化をもたらしていることを改めて強調した。
「モバイルやクラウドの爆発的な広がりによって、人々はますます洗練されている。特に若者の仕事のやり方やコミュニケーションのとり方は、私のころとはまったく違うものになっている。彼らは好きなやり方で仕事するし、買いたい方法で商品を買うことが重要だと考える」とハード氏は説明する。
そうした中で、企業のIT部門に対するニーズは今後10年でさらに変化するという。現在、20年も前から同じアプリケーションを使っている企業は多い。しかし、そうしたアプリケーションは複雑にカスタマイズされていて柔軟性がない。アップグレードは可能であるが、大変な作業を強いられる。結果的に、企業のIT予算の約8割はそうしたレガシーのアプリケーションを稼働させ、持続させることに当てられている。ビジネスを止めるわけにはいかないからだ。
ハード氏は「それらはクラウド、ソーシャル、モバイルの前時代に作られた、現実にはそぐわないものだ。使い続けるのは決してイノベーションではない」と言い切る。
しかしながら、そうした問題意識は持ちながらもCIO(最高情報責任者)に対して無限のIT予算を与えるCEOはいないだろう。むしろ多くの企業でIT予算は削られる傾向にある。
「CIOは今最も大変な任務を負っている。社内各部門のトップや外部のベンダー、パートナーなどからイノベーションを強く求められる。経営戦略に基づき遂行する一方で、組織変革もしなければならない。例えるならば、ボートを漕いでいる一人に対して、岸にいる多くの人々がメガホンであれをしろ、これをしろと叫ぶようなものだ」とハード氏は述べる。
このように企業規模や業界に関係なく、CIOには共通の課題があるとハード氏。そこで同キーノートでは、8社のCIOが登場(ビデオ出演も含む)し、取り組みなどを語った。
なぜイノベーションを起こし続けるのか
登場したのは、米Walgreens、米General Electric(GE)、米Procter & Gamble(P&G)、米FedEx、英Pearson、英Dunnhumby、米Xerox、米Intelの8社。合わせて125万9600人の社員を抱え、33億ドル以上の収益を上げている。
その中の1社であるWalgreensは、1901年にイリノイ州で創業した米国を代表する薬局チェーン。2014年7月末時点で8192店舗を展開しており、1日当たり800万人以上の買い物客が訪れる。「米国で暮らす人の65%は住居の3マイル以内に店舗があるというデータがあるほど、消費者の生活と密接に結び付いている」と、同社CIOのティム・セリオールト氏は胸を張る。
小売業の同社が最も重視するのがサプライチェーンである。欠品することなく商品が常に店舗なくてはならないが、SCM(サプライチェーン管理)システムなどにかけられるIT予算は減少している。「コスト削減の中でもイノベーションしなければならない。顧客に価値を提供すべきだからだ。そうした点でコスト抑制が見込めるOracleのクラウドサービスは歓迎できる」とセリオールト氏はコメントした。
同様の課題を抱えるのが、一般消費財メーカー最大手のP&Gだ。同社は実に40億人の顧客を抱えているため、商品在庫が切れるという事態は許されない。加えて、リードタイムの短縮化も不可欠である。「われわれIT部門のサプライチェーンに対するイノベーションは店舗の商品棚に直結するのだ」と、同社CIOのフィリポ・パッセリーニ氏は力を込める。
また、同社ではリアルタイム経営に対するイノベーションにも挑戦している。3〜4年前から製品の販売データなどの統計情報やソーシャルメディア情報をすべて把握して、データに基づく迅速な意思決定を促進している。ビジネス会議の場では、参加者の周囲にビジュアル化されたさまざまなデータを表示。各製品担当者はそれぞれの商品がどのように売れているか、消費者からどう思われているかをリアルタイムで分かるようになった。
「すべてデータで裏付けられているので弁解の余地はない。メンバー全員が同じ情報を共有して、問題点を分析し話し合う。改善策は1時間程度でまとまる。従来のように何週間もかける必要はない」(パッセリーニ氏)
こうした仕組みを構築する上で、パートナーの協力は不可欠だったという。パッセリーニ氏は「個々の会社だけで取り組むのではなく、ビジネス目的を念頭に置き、共同で何かを作り上げるのが大切だ」と経験を語った。
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