JR東日本が仕掛ける、駅を今よりもっと便利にする「秘策」:東京駅は「全域Wi-Fi対応」、ご存じでしたか?(3/3 ページ)
駅をもっと便利にしたい──顧客サービスのさらなる向上を目指し、JR東日本が「SDNソリューション」を導入し、JR東京駅と新宿駅で運用をはじめた。SDNを選定した経緯と理由、それは私たちにどんな効果をもたらしてくれるだろうか。
効果と成果:ネットワークの仮想化により、短期導入が可能に
駅構内共通ネットワークは、まずは東京駅へ導入。追って都市部の主要駅への拡充を計画する。東京駅は、2013年4月の京葉エリアを皮切りに、同年9月にグランルーフエリア、同年11月に丸の内・八重洲・グランスタエリア、2014年3月に総武エリア・北口通路の対応を完了。2014年10月に新宿駅でも運用をはじめた。
「SDNによる駅構内ネットワークによって、構想した新サービスを素早く具現化できるようになった。ネットワークの仮想化により、既存の構成やサービスに影響を与えず(物理構成を意識せず)、新ネットワークを短期に構築でき、かつ構築時に各機器の設計や設定が不要であるのがSDNのメリット。ネットワークの論理接続構成を定義し、コントローラに設定するだけで実現できる。統合されたことで物理網もシンプルになり、運用管理コストの大きな削減も期待できる」(JR東日本の殖栗氏)。
駅構内共通ネットワークは、これまで約1年かかっていたあるサービス実現までの工期を「約4カ月に短縮」させる効果があった。
実際、駅構内共通ネットワークの運用によって「東京駅全エリアを無線LAN化」(2014年3月開始)、「Suicaロッカー空き情報提供システム」(2013年3月に東京駅で運用開始)、「可搬型情報配信ディスプレイ」(2013年12月に東京駅で試験導入開始)、「無線LANアクセスポイントを用いた屋内位置検知サービス」(2014年3月に東京駅限定でスマホアプリを提供、同年11月にサービス対象駅に新宿駅を追加)などの新しい顧客サービスがすぐに実現した。
構内全エリアの無線LAN化は、混雑によって電波がつながりにくくなるのをどうにかしてほしいと感じるスマホ利用者にとても有益なサービスだろう。スマホ利用者の急増でひっ迫する携帯電話網での通信をほかの回線へ逃がす(オフロードする)ことで、混雑に由来する不便を解消できる効果が見込める。構内に置く無線LANアクセスポイントを増やし、それらを駅構内共通ネットワークに集約。駅構内共通ネットワークを経由して各キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルなど)の公衆無線LANサービスとつなぐ仕組みだ。加えて、駅構内施設の付加価値を高める目的で「カフェ内無料Wi-Fi」も拡充させた。
訪日外国人に向けた無料公衆無線LANサービスにおいては最近、鉄道各社がサービスの拡充を加速させている。11月25日に東京メトロと都営地下鉄が、翌26日にJR西日本が特急列車の車内で無料Wi-Fiサービスを提供すると発表した。JR東日本も、2012年10月より東京駅、成田・羽田空港直近駅の「JR EAST Travel Service Center」や山手線を中心とした駅で無料公衆無線LANサービスをすでに展開しており、東京駅では駅構内共通ネットワークで運用している。英語、中国語、ハングル、日本語の4言語に対応し、1日に何度でも利用可能(1回あたり3時間まで)。大規模災害時には、同サービスを解放して登録なしで誰でも利用できるよう整備も済ませた。
構内全てを無線LAN化したことで、無線LANアクセスポイントの電波を用いたスマホでの屋内位置検知型情報サービスも「JR東日本アプリ」(Android/iOS)で実現した。運行情報や時刻表のチェックに加え、SDN化を済ませた東京駅と新宿駅では、GPS電波が届かない屋内でも、構内の位置情報をもとにしたきめ細かい情報サービスを提供できる。
“可搬型”の情報ディスプレイもそうだ。事故や障害の発生時、これまではその情報を改札周辺の手書きボードや有線接続の固定ディスプレイで示していた。無線化によって、容易な移動性や表示情報の遠隔管理などが可能になり、改札付近以外の場所でも適切に情報を提供できる機会が増した。改札に利用者が滞留して混乱が起こる可能性、そして改札付近の駅社員がその対応のみに追われる可能性も減らせる。
「Suicaロッカー空き情報提供システム」もスマホ利用者が増えた顧客のニーズに対応した新サービスだろう。駅のロッカーは、観光客・レジャー客、出張客などに特に需要がある。土地勘のない場所で、特に広い東京駅の構内では、大きな荷物を持って移動するにも大変だ。それだけに、ロッカーの場所やその空き情報に関する駅員への問い合わせはとても多い。手元のスマホで欲しい情報をすぐ得られるならば、利用者へのサービス向上という主体的効果はもちろん、「結果として駅員への負担を減らす→別のサービス向上に努める活動に取り組めるようになる」(JR東日本の殖栗氏)という副次的な効果にもつながる。
このほか、2020年の東京オリンピック需要を見越し、訪日外国人に向けた「他言語対応」「翻訳ツール」「駅周辺の観光情報を配信」「駅員用タブレットの有効運用」なども計画する。
「SDN化によって、駅を中心にした新サービスを素早く実現できるようになった。共通インフラとしての価値は、多くのシステムが接続されて向上していくと思う。お客様サービスのさらなる向上と、駅社員の業務支援や業務変革を、駅構内共通ネットワークでさらに発展させたい」(JR東日本の殖栗氏)
オリンピックの開催で駅の利用者が急増することは容易に想像がつく。もちろん、普段の利用者も同様に重要だ。顧客のニーズを満たし、結果として駅員の負担を減らす=それ以外の顧客サービスの向上に注力できるようにするサービスは、分かりやすく、もっと具体的な効果が出そうだ。さらなる新サービスの創造に期待したい。
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