シーズからニーズ重視へ──変わりつつあるITベンダーの研究開発最新事情:Weekly Memo(2/2 ページ)
ITベンダーの研究開発のあり方が、シーズから「ニーズを重視」する方向に変わってきている。その背景に何があるのか。NECの取り組みを例に考察したい。
大事なのは、ニーズとシーズのマッチング
こうした研究開発のあり方が「これまでと正反対の方向」というのは、どういうことか。
江村氏によると、「これまでの研究開発では、こんな分野に使えそうだというイメージはありながらも基本的には技術ありき。すなわち、シーズを重視していた。しかし最近では、どのソリューションに向けた研究かをまず明確に定め、それに必要な技術を開発するという、ニーズ重視に変わってきている」という。
シーズではなくニーズを重視した研究開発は、確かにそのプロセスにおいて正反対だ。NECの場合、その背景には「社会ソリューション事業への注力」という全社的な経営戦略がある。
ならば、NEC特有の現象とも受け取れるが、江村氏は「私の見る限り、当社に限らず、ソリューションを前面に押し出している同業他社の研究開発もニーズ重視に変わってきている」とも話す。ということは、ITベンダーの大半がそう変わってきていると見ていいだろう。研究開発における時代の移り変わりととらえることができる。
ただし、懸念される点もある。直近のニーズを重視するばかりで、10年、20年先に役立つようなシーズの基礎研究開発を怠ってもいいのかということだ。多少“針を逆ブレ”させた質問に、江村氏は次のように答えた。
「時代が変わろうと、基礎研究は地道に続ける必要がある。当社の研究開発のプロセスはソリューションを前提としているが、研究開発部門の組織は技術分野ごとに構成しており、ソリューションごとにプロジェクトを組んで進めている。基礎研究はその技術分野ごとの組織において、15%程度のリソースを割いて継続的に進めるようにしている。成果については分野ごとでさまざまだが、基礎研究への執着は持っている」
特にNECの研究開発の中枢拠点である中央研究所は、基礎研究でも定評がある「日本を代表する情報通信分野の研究機関」である。同研究所を率いる江村氏の基礎研究に対する発言には、研究者のプライドが垣間見えた。
江村氏の説明で、ニーズ重視についてもう1つ興味深い話があった。社会ソリューションの進化についてだ。
上図は、横軸に「範囲の拡大」、縦軸に「質の向上」をとり、それぞれの要素をふまえながら、システム全体の最適化と提供サービスの高度化を進め、付加価値の高い社会ソリューションを提供していくことを示している。これはいわば、同社の研究開発における「社会ソリューションのロードマップ」である。ざっくりとした図だが、難しい言葉が並ぶ技術のロードマップよりは一般向けに分かりやすい。
江村氏は最後にこう強調した。「大事なのは、ソリューションと技術、つまりニーズとシーズをマッチングさせることだ」。NECをはじめとしたITベンダーには、この気概で研究開発に励んでもらいたい。
関連記事
- 社会を支え、つなげるICT技術に自信――NEC遠藤社長
NECの「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO」が開幕。基調講演は遠藤信博社長は、世界人口の増大と日本の人口減少という対極的な変化の中で社会インフラを支えるICT技術の展開により注力していくと語った。 - NECは新ブランドメッセージで勢いを取り戻せるか
NECが社会ソリューション事業の拡大に向け、さまざまな施策を打ち出している。筆者は「C&Cへの原点回帰」と感じている。長らく売上高の減少が続いた同社だが、果たして勢いを取り戻すことができるだろうか。 - NECの研究開発における懸念
NECが先週、研究開発における説明会を開いた。同社が注力する社会ソリューション事業への貢献がうたわれていたが、一方で気になる点も。筆者なりの印象を記しておきたい。 - NEC、社会インフラを支える「Safer Cities」ソリューションを世界展開へ
ICTを活用した高度な社会インフラを提供するという「社会ソリューション事業」におけるグローバル成長戦略の柱の一つとなる「セーフティ事業」を本格的にスタートさせる。 - 富士通とNECのトップが語るクラウド事業の攻めどころ
富士通とNECが先週、2013年度の連結決算を発表した。それぞれの会見に臨んだ両社のトップに、クラウド事業の攻めどころについて聞いてみた。 - 松岡功の「Weekly Memo」バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.