情報漏えい事件から考えるビッグデータとサイバーセキュリティ:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(3/3 ページ)
「サイバーセキュリティ基本法」が全面施行され、個人情報保護法の改正に向けた作業も進んでいるが、海外ではサイバー攻撃に起因する情報漏えいが続発している。ビッグデータのメリットを維持するためには、どのような対策が必要なのだろうか。直近の事件から考察する。
ビッグデータ利活用を支える全社的な危機管理チーム組織の構築が急務
CHSもSPEも、所管する規制当局の下で一定レベル以上の情報セキュリティ/プライバシー保護対策を行ってきた矢先に、海外からのサイバー攻撃を受けたことがきっかけとなり、様々なコンプライアンスのリスクが連鎖反応的に顕在化して、社会問題化していった。
このような状況になると、従来の情報セキュリティ管理や個人情報保護管理の仕組みでは、対応には限界がある。まして、オンプレミス型とクラウド型が混在するシステム環境上で、大容量かつ様々な種類のビッグデータがリアルタイムで分散処理される状況になったら、サイバー攻撃を受けた後の危機対応はより複雑かつ困難なものになり、自社リソースだけで解決できない難題に直面することになる。
今後ビッグデータに関わる企業は、東日本大震災の教訓を踏まえた災害対策・事業継続計画策定時のように、あらかじめ企業の危機管理を担う部門横断的なサイバーセキュリティチーム組織を構築した上で、ICTサプライチェーンを構成する内部・外部の連携体制、所管当局の監査への対応計画などを準備し、人材教育や訓練・演習を継続的に行っておく必要がある。
北米、EU諸国とも、ビッグデータビジネスに関わりの深いプライバシー保護規制やサイバーセキュリティ対策を強化する動きが顕在化する中、グローバル企業の間では、「CISO」(Chief Information Security Officer)や「CPO」(Chief Privacy Officer)に具体的な執行権限と予算を持たせながら責任分担を明確化し、迅速かつ適正な情報開示を可能にする仕組みづくりが進んでいる。対する日本企業の多くは、CISO/CPOの配置・育成自体が遅れており、ビッグデータの普及とともにその差が広がりかねないのが現状だ。日本のサイバーセキュリティを取り巻く事態は深刻である。
次回はサイバー攻撃に起因する情報漏えい事例から、データベース管理者やデータサイエンティストを取り巻く課題を取り上げる。
著者者紹介:笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などでビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
Twitter:https://twitter.com/esasahara
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara
Facebook: https://www.facebook.com/esasahara
日本クラウドセキュリティアライアンス ビッグデータユーザーワーキンググループ:
http://www.cloudsecurityalliance.jp/bigdata_wg.html
関連記事
- スマートシティ大国オランダに学ぶビッグデータの利活用戦略
EU諸国の中でオランダは、地域主導型スマートシティから築き上げた付加価値サービスの上に、クラウドやビッグデータの新技術を組み合わせながらグローバル展開を図っている。同国の事例を紹介しよう。 - 社会課題の解決にビッグデータを活用するデンマークの取り組み
EU諸国は、スケールメリットを生かした低コスト戦略が主流のクラウド上で、ビッグデータならではの付加価値サービスを開発し、独自性を発揮しようとしている。今回は北欧の社会課題の解決先進国であるデンマークの事例を紹介する。 - 健康医療のビッグデータ活用とリスク対応における欧米の足並みとは?
ビッグデータ活用の有力分野の1つとなる健康・医療では欧米が大西洋を越えた連携を進める。高まるプライバシーやセキュリティのリスクへの対応を含めた動向を紹介しよう。 - 欧州にみるIoT活用とリスク管理への挑戦
IoT(モノのインターネット)から生まれるビッグデータを活用したイノベーションが進む一方、プライバシー/個人情報管理、サイバーセキュリティなど、リスク管理上の課題も広がりつつある。厳格なプライバシー保護政策で知られる欧州諸国はどのように対応しているのだろうか。 - アイルランドにみるビッグデータとセキュリティの世界動向
多数のインターネット企業が欧州の拠点を構えるのがアイルランドだ。北海道とほぼ同じ面積の小国ながら、ビッグデータの利活用とセキュリティやプライバシーなどにおける取り組みが注目されている。 - ボストンに学ぶ市民参加型コミュニティの管理と人材の役割
市民主体の「シビックテック(Civic Tech)」を活用する自治体にとって悩みの種は、コミュニティの活性化と安定的な運用管理の両立だろう。米国の古都であると同時に新しい起業家を輩出し続けるボストンの取り組みとはどのようなものだろうか。 - 米シカゴにみる、市民参加で地域課題の解決を目指すスマートシティの最前線
現代の地域社会が抱える問題は複雑かつ多様であり、その解決に市民の力とICTを活用する動きが急速に広まっている。この分野で先行する米国シカゴの取り組みとはどのようなものだろうか。 - 研究開発を牽引するクラウドとビッグデータ、リスク管理をどうするか
健康医療分野の研究開発ではクラウドやビッグデータの活用が進んでいる。だが、ステークスホルダーや活用されるデータの広がりとともに、様々な情報セキュリティやリスクの問題も浮上する。先行する米国での事情はどのようになっているだろうか。 - 健康・医療分野におけるビッグデータイノベーションの動向
健康医療はビッグデータ利活用への期待が高い反面、厳格な法規制の下で情報セキュリティのリスクも高い。日本では医療介護データの有効活用によって医療費削減を図る方針が打ち出されたばかりだが、先行する米国はどのような形で取り組んでいるのだろうか。 - 世界や米国にみるセキュリティ人材の育成術と日本の課題
加速するビッグデータビジネスにおいて、情報セキュリティをコントロールできる人材の育成が追い付いていないのは、万国共通の悩みだ。クラウドコンピューティングやクラウドソーシングを活用して、将来を担う人材へテクノロジーと運用管理の両面の経験/スキルを学ぶ場を提供する動きが世界中に広がっている。 - 新規事業創出で注目されるクラウドストーミング、利点とリスクは何か
不特定多数からアイデアを募る「クラウドストーミング」への関心が高まっている。ビッグデータ関連の新規事業の開発で企業がクラウドストーミングを活用する際のベネフィットとリスクにはどのような点があるのだろうか。 - セキュリティ/リスク管理から見た米国のオープンデータ戦略
米国が推進するオープンガバメント政策では、データの利活用において国民の参加を促す仕組みを取り入れ、同時に浮上するプライバシー/セキュリティの課題にも具体的な対応を図っている。同国はこのテーマにどう取り組んできたのか――。 - ソーシャルメディアで加速するビッグデータ利活用とガバナンス課題
インターネットを介した情報流通の拡大と利活用の広がりは、様々なイノベーションと新たな課題を生じさせてきた。今回はソーシャルメディアを中心に、ビッグデータの利活用や課題を掘り下げる。 - IoTとビッグデータがもたらす社会変革とクラウドセキュリティ
今回はInternet of Things(モノのインターネット)やビッグデータの特徴をひも解きつつ、社会に与える影響とセキュリティ上の課題を提起していく。 - 【新連載】ビッグデータ利活用の表舞台に立つプライバシーとセキュリティ
企業や組織がクラウドやビッグデータ、モバイルなどのITトレンドをビジネスに取り込んでいく中で、避けて通れないのが、プライバシーやセキュリティへの対応だ。今後想定される課題や対応に立ち向かうためのヒントをお届けしていく。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.