新たなクラウド戦略を打ち出した富士通の思惑:Weekly Memo(2/2 ページ)
富士通がオープン技術を採用した新たなクラウドサービスを打ち出した。グローバル市場を舞台に、果たして先行する競合ベンダーを追撃することができるか。
同じ“OSS陣営”としてIBMなどと共同歩調をとる戦略へ
パブリッククラウドサービスについては、富士通はこれまでIaaS/PaaSとして、独自基盤の「Trusted Public S5」、Microsoftと連携した「A5 for Microsoft Azure」などを展開してきた。これらの既存サービスについては引き続き提供するとしているが、同社では今回発表したK5を「既存サービスの進化形」として、今後のIaaS/PaaSの中核に据えていく考えだ。(図2参照)
それを証明するのが、同社が2015年2月に「国内外のグループ企業で稼働中のすべての社内システムを次世代クラウド基盤に移行・刷新し、大規模システムのクラウド移行と運用ノウハウをリファレンス化する」と表明したことだ。その次世代クラウド基盤が、ほかでもないK5である。
具体的には、約640システム(サーバ数:約1万3000台)からなる社内システムを今後5年間でK5の基盤に移行し、350億円のTCOを目指すとともに、この移行で培ったスキルやノウハウをリファレンスモデルとして、顧客企業へのソリューション提案やシステム構築・運用に活用しようというものだ。
クラウドサービスも社内システムのクラウド化も、オープン技術の採用へと大きく舵を切った富士通は、その中核となるK5のデータセンター拠点を2015年度第3四半期から東日本および西日本で順次開設し、2016年度からグローバル展開していく構えだ。
こうした新たな取り組みを打ち出した富士通だが、果たしてIaaS/PaaS市場において先行する競合ベンダーを追撃することができるのか。この市場では現在、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoftが先行しており、富士通と同じオープン技術を採用したIBMなどが追随する構図となっている。この点について、発表会見の質疑応答で単刀直入に聞いてみたところ、遠藤氏は次のように答えた。
「先行するベンダーに対して機能や性能はもちろん、価格においても競争力のあるサービスを提供していく。ただし、単純にIaaS/PaaSという同じ“土俵”で戦うのではなく、プライベートクラウドやオンプレミス環境とのハイブリッド利用におけるインテグレーション領域で、当社の強みを発揮していきたい」
今回の富士通の取り組みに対しては、「AWSやMicrosoftとの差は相当開いており、同じオープン技術を採用したIBMと比べても1年以上遅れている。巻き返しにはかなりのスピードとパワーを要する」(業界関係者)との声が少なくない。
しかし、クラウド需要がこれから本格化する中で、同じ“OSS陣営”としてIBMなどと共同歩調をとる戦略に打って出たことは、適切な判断かもしれない。巻き返しに向けたスピードとパワーをどれだけ発揮できるか。パブリッククラウドサービスを総合的に提供する最有力の日本のベンダーとして、グローバル市場でどれだけ存在感を示せるか。注目しておきたい。
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