iPadで“ペーパーレス操縦室”を実現した航空会社(2/2 ページ)
競争の激化で厳しさが増す航空業界で、ITを使ってコスト削減をしようとする会社は多い。そんな中、デスクトップ仮想化で「Windows XP」の移行を低コストで済ませ、さらには飛行機のパイロットにiPadを支給した会社がある。
操縦室から“紙”をなくす
こうした“守りの対策”と平行して進めたのが、“攻めの対策”となるタブレット導入だ。彼らはタブレットをオフィスではなく、飛行機の操縦室に導入したのだ。
というのも、パイロットには“マニュアルや飛行計画など数キログラムにも及ぶ書類を携帯するのが面倒”という悩みがあったためだ。そこでiPadで書類を閲覧するスタイルに切り替えることにしたという。荷物が減れば機材が軽くなり、最終的に燃油の削減にもつながる。その後、業界専門のベンダー「AeroDocs」と組み、専用アプリの開発と書類のデータ化を進めた。
機内でのタブレット利用については、航空規制当局の承認を得る必要がある。条件は6カ月間のトライアルで異常が起きないことだった。まずは北米路線のパイロット向けに実験を開始。これまで大量の書類を抱えていたパイロットは、免許証とiPadがあれば飛行機に搭乗できるようになった。
搭乗にまつわる準備や手間が大幅に短縮されることから、トライアルはパイロットに好評で、最終的に750人全員のパイロットにiPadを支給したそうだ。トラブルでiPadが使えなくなるケースに備え、操縦室にはバックアップ用として、機材ネットワークに接続したパナソニックのタブレット「TOUGHBOOK」も用意した。
このiPadは会社からの完全支給だが、製品をリフレッシュする2年後には、社員自身のものとして使えるようになるという。「2年後に自分のものになると思うと、大切に使ってくれる」とモナハン氏は狙いを語る。
セキュリティについては、CitrixのMDM(モバイルデバイス管理)機能「Citrix XenMobile」を導入した。端末の紛失時には、報告を受けた5分後にはデータを完全に削除する、といった対策を講じている。
世界中を飛び回るため、海外にいるときの通信はデータローミングとなり、通信費が跳ね上がってしまうという問題もあったが、社内のアプリやデータ、飛行計画にアクセスするときは3G回線、Facebookなどプライベートで利用するアプリについてはWi-Fiでしかアクセスできないという“サンドボックス”化で対処したという。
iPad導入の次は「ユーザー体験の向上」
“空の上”での導入効果が確認できたことから同社では、地上のスタッフ1200人にもiPadを配布した。GPS機能を利用して、荷物の積み下ろしや機材の移動などの作業を追跡したり、作業の変更をいつでも通知できるようになった。これにより、機材の離発着時に必要な地上での作業が効率化され、乗客の誘導もスムーズになったという。「われわれにとってフライトの遅れは大きな損失になる」とモナハン氏。今後、2015年内にはさらに1500人の客室乗務員にもiPadを配布する予定だ。
モナハン氏はiPadに続くIT改革として、「顧客向けにスムーズな体験を提供するプロジェクトに取りかかりたい」と意気込む。計画しているのは、顧客が空港に来てチェックインし、荷物を預けて、フライトの時間になると搭乗するという一連の作業を、RFIDタグとモバイルを利用することで自動化するという、IT化への取り組みだ。
その取り組みの第一歩となるのが、2015年6月のサービスインを目指す新たなWebサイトの提供だ。インタフェースやデザインを刷新し、ユーザー体験を改善するという。航空券の約9割をオンラインで売り上げている同社にとって、Webサイトは顧客が最初に情報に触れる大切なポイントだ。
「航空業界は変化が激しい。競合と同じではなく、一歩先んじる必要がある」とモナハン氏は強調する。“アイルランドと世界を結ぶ”を目標に掲げるエアリンガス。ITがもたらす業務改革から今後も目が離せない。
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