第36回 「要件適合表」の功罪:テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」(2/2 ページ)
ユーザーは「より良いものを使いたい」、ベンダーは「より良いものを提供したい」と考えているはずですが、なかなかうまくいかないことも。その理由の一端が「要件適合表」という存在です。
ベンダーの自己評価でいいの?
理由の1つは、この○×表を誰が記入するか、です。
○×表と聞くと、選ぶ側(ユーザー)がプレゼンを受けたり質疑応答を経たりして記入する評価表であるように思えます。しかしながら、多くの要件適合表はそうではなく、記入しているのはなぜか選ばれる側(提案ベンダー)です。不思議ですよね?
実は、要件適合表は意外なところで注目が集まっています。完成後のシステムがRFPの要件を満たせていない場合などで、提案時に言った言わないなどのトラブルになるケースが増えており、この対策として、水掛け論に備える“保険”の意味合いで要件適合表を用意し、ベンダーに記入させるのです。
ここで少し、ベンダー側の気持ちも頭に入れておきましょう。ベンダーはお客様にインフラを構築・納品することが仕事。通常、誰もが受注したいと考えるはずで、「×を減らせないか」「どうにか○にできないか」を考えます。○×表が目の前にあると、×を記入するのが怖くなってくるほどです。
実際、できないのにできると“オーバーコミット”してしまうケースは散見されますし、行き過ぎた例では「質問を誤解して○にしてしまった。この質問の書き方が悪い」などと言い訳し、結局水掛け論になってしまったという話も聞いたことがあります。これではもう逆効果です。
ベンダーの自己評価結果をそのまま採点するの?
ユーザー側の問題もあります。万一の保険として保管しておくだけであれば良いのですが、ベンダーが自己評価した○×表をそのままうのみに採点し、プレゼンや提案書以上に重要視してしまうところも日本ならではの“ここ変”といえるでしょう。
きちんとしたRFPになればなるほど「○は5点、△は3点、×は0点」といったように要件適合表の採点基準まで赤裸々にされていることがあります。私自身が経験した例だと、「価格点と技術点の2つの要素で選定。価格点は1枚目の見積シート、技術点は2枚目の要件充足シートを中心に評価します」といったように、潔く通知されたこともありました。プレゼンや提案書より要件適合表の方が優先されるというのです。
各社のプレゼンや提案書はフォーマットがバラバラであり、採点や比較検討に頭を悩ませてしまうのは分かります。しかしながら、こうなってしまうと、ベンダーも要件適合表に沿って「型にはまった提案」をするしかありません。既存に囚われない型破りな発想、つまり、Appleの新製品のような画期的なアイデアは、既存を捨てて進化していきますので「×」も出てしまう。もちろん、良い点もたくさんあるのですが、”要件を満たしかつ素晴らしい” も “要件を満たす“ もどちらも同じ「○」でしかないので合計点は低くなってしまうのです。これでは諦めるしかないでしょう。お蔵入りです。
革新的なアイデアは取り込んでいきたいですが、ベンダー選定は担当者にとってリスクを大きく、できる限り客観的に判断したいところ。RFPの前段階であるRFI(Requset for Informattion:情報提供依頼書)や欧米企業のエッセンスも含め、いくつかの糸口を探っていきたいと思います。
(次回につづく)
小川大地(おがわ・だいち)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。
カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション
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