「AI×ビジネス」が広がる今後、情シスは何をすればいい?:AIの「今」を知る【後編】(3/3 ページ)
技術が発達し、実用例が広がったことから盛り上がりを見せているAI(人工知能)。今までは研究や技術の進歩に注目が集まってきたが、今後はビジネスへの応用が“主戦場”になるという。そのとき、情シスはどう動けばよいのだろうか。
AIはまだまだ“伸びしろ”がある、ただし……
昨今話題になっているIBMの「Watson」やソフトバンクの人型ロボット「Pepper」は、こちらの問いかけに応えるという、会話によるコミュニケーションができることが特徴だ。「これぞ最先端のAI」という印象を受けるかもしれないが、実はこれは最新の技術と古い技術を組み合わせたものだという。
「WatsonにしてもPepperにしても、本当の意味で人間の言葉を理解しているわけではなく、そう“見せかけている”だけです。人間の言葉を聞きとる『音声認識』の部分は、ディープラーニングなど最新鋭のAIによって大きな進歩が見られました。ところが、聞き取った言葉の意味を理解して会話する『自然言語処理』の部分は、昔から研究が続けられてきましたが、実はそれほど大きなブレークスルーはまだ起きていません。
iPhoneのSiriなども会話をしているように感じられますが、あれは“チャットボット”と言って『こう言われたら、こう返す』というパターンに従って返答する、ある種『便宜的』な方法を取り入れているわけです」(小林氏)
人工知能の研究が始まった当初の目的であった「人間の脳を模倣する」という考え方からすると、WatsonやPepperもまだまだ人間の知能からは程遠い。これらはむしろ、旧来の自然言語処理に磨きをかけて実用化にこぎつけたAI技術と言うことができる。一方で、本当に人間の脳と同様のメカニズムで会話するAIを目指す研究者もいる。
「基礎研究の分野は、モノを見たり聞いたりして認識するというレベルから次のフェーズに移り始めています。ただしこれは非常に難しい。これまでは、脳科学者が動物実験によってモノを見るときの脳の動きなどを解明し、その成果をAI研究に取り入れてきたわけですが、今後は自然言語処理や、考える、物事を推論するといった、人間特有の高次の処理を解明していかなければなりません。それは動物実験では分かりません。人体実験は倫理的な面でも非常に難しいですから、AI以前に脳科学がこれからどうやっていくのかが問題です」(小林氏)
AIの先端研究が大学から企業に移り、技術の発展が難しいフェーズに突入している今、AIの進歩や注目はむしろビジネス面での応用にかかっているといえるだろう。ITベンダーもさまざまなソリューションを出しており、AI活用における参入障壁は下がりつつある。
文字通りAIが“誰にでも”使えるものになれば、その先に待っているのはビジネスとアイデア勝負の世界だ。運用業務はAIに任せればいい――そんな時代も近いかもしれない。そうなる前に、小林氏の言うように、AI技術の進歩を追いつつ、それがどのように業務に生かせるか考え続けることが、情報システム部門に必要な動き方なのかもしれない。
関連記事
- 特集:AIが“エンタープライズIT”を再定義する
- 50年以上研究されてきた人工知能、今なぜブームに?
ここ最近「AI」という言葉を耳にする機会が増えているが、そもそもAIとは何か? そして、今なぜAIブームが起きているのか。AIの専門家に解説してもらった。 - ももクロコンサートに「本人確認システム」 チケット転売対策、高精度な顔認証技術で
人気イベントの運営を、正当に、スムーズに行うための高精度な顔認証システムが稼働する。NECの高精度な顔認証技術を使い、会場での本人確認時間を最大30%短縮する。 - 人工知能対プロ棋士の囲碁対局、YouTubeでライブストリーミングへ
Googleのディープラーニングシステム「AlphaGo」と韓国のプロ棋士、李世ドル氏との3月の囲碁対局が、YouTubeでライブストリーミングされる。対局は3月9日から5回にわたって韓国で行われる予定だ。 - 費用対効果は? ナレッジは誰のものか? 「IBM Watson」の課題
AI(人工知能)技術を活用した「IBM Watson」が日本語で利用できるようになり、日本企業のデジタル化が大きく進みそうだ。一方で課題もある。筆者なりに2つ挙げておきたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.