英国のEU離脱問題から考えるビッグデータの管理:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(3/4 ページ)
2016年6月23日(現地時間)に実施された英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票(Brexit)の結果は、日本を含むグローバル企業におけるビッグデータの運用管理にどのような影響を及ぼすのだろうか。
企業の業界規制対応にも影響が及ぶ「Brexit」
前述したEUの「ワンストップショップメカニズム」は、個人データ保護規則のみならず、業界規制でも導入されている。例えば、EU域内で医薬品を販売する場合、EUの専門組織である欧州医薬品庁(EMA:European Medicines Agency)から一元的に承認・認証を取得するケースが一般的だ。EMAの事務局はロンドン・カナリーワーフ地区にあり、その周辺では米国や日本などEU域外の医薬品企業や医薬品開発受託機関(CRO)、研究開発型スタートアップ企業などがオフィスを設置し、一大産業クラスタを構成している。
こうした場合、薬事申請に必要な知財情報、臨床試験データなどの企業データを保存するサーバやストレージも、カナリーワーフのオフィスで使いやすいロケーションに置くのが一般的だ。臨床試験データには患者の個人情報も多く含まれるが、現状において同じEU域内でやりとりする分には、EU個人データ保護指令上の問題は起きない。
英国では、イノベーション政策を所管する行政機関「イノベートUK」が5000万ポンドを投資してケンブリッジ大学バイオメディカルキャンパスを本拠地とする研究ネットワーク「プレシジョン・メディシン・カタパルト」を構築している。この他に、EU域内や北米と連携したビッグデータによる創薬プロジェクトも目白押しである。
しかし英国がEUを離脱するとなれば、ロンドンにあるEMAの事務局は英国以外のEU加盟国へ移転する。以前からイタリアやスウェーデン、デンマークなどが積極的に誘致活動をしており、もしグローバルな薬事申請のためのプラットフォームが英国外に移転すれば、英国全体の医薬品産業の空洞化が懸念される。
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