どうしたら“頼りになる専門家チーム”が育つのか 大阪ガスの河本氏に聞いてみた:情シス“ニュータイプ“の時代(1/2 ページ)
AIやIoTといった言葉がメディアを賑わし、こうしたトレンド技術をビジネスに生かそうと考える企業が増えている。大阪ガスのデータサイエンティスト、河本氏は、こんな時こそ技術畑で育ってビジネスも分かる人間が必要だと話す。
大阪ガスのデータサイエンティストを務める河本薫さん(情報通信部 ビジネスアナリシスセンター長)は『会社を変える分析の力』という著書があり、現在は大阪大学で教える教育者でもある。社内の専門家チームとしての仕事の仕方を紹介した前編に続き、後編では技術系人材が活躍できる組織を作るためのマネジメントや教育への思いを聞いた。
「地道なヒットの積み重ね」が信頼につながる
ビジネスアナリシスセンターのルーツは、同社の研究所にある。17年ほど前に統計解析によるガスの販売量の予測に取り組んでいたチームが、この分析力を他の分野でも使えるのではないかということで活動範囲と人員を拡大し、10年ほど前に本社の情報通信部に移った。その後、2012年にビジネスアナリシスセンターという名称になり、今に至る。
こうした経緯を聞くと、大阪ガスではデータ分析をビジネスに活用するという文化がボトムアップで作られてきたことが分かる。しかし、最初から順風満帆というわけではなかったようだ。
「研究所時代は現場から隔絶されていたので、ビジネスのことが何一つ分からなかったんです。雑誌や何かで他社の事例を読んで事業部に提案に行くんですが、今、思えばズレた提案ばかりで全く採用されませんでした。仕方がないので『何か分析することはないですか』と言って便利屋に近いようなことをしているうちに、現場の仕事をするチャンスが開けてきました」(河本氏)
河本さんは、「17年で築いた一番の財産は社内レピュテーション(評価)」だと話す。「少しずつ成果が出せるようになり、『分析って役に立つね』というデータ分析に対するレピュテーションと、私たちのチームに対するレピュテーションが徐々に醸成されていったんです」(同)
1つの案件に関わった人たちがデータ分析の効果を知って再び依頼してくれたり、部署を異動した人が異動先でデータ分析の有用性を広めてくれたり――という形で、社内での認知と評価が広まっていったのだ。
こういった経験から、他社でデータ分析を始めたいという人に対して河本さんは、「まずはホームランではなく、“シングルヒット”を目指しましょう」とアドバイスする。これは情報システムの導入や開発で役に立ちたいという情シスにも、同じことがいえるだろう。
「小さいことでもいいので、『データ分析で成果が出た』ということがみんなにぱっと分かるような、そういう成果を積み重ねることが大事です。これからはビッグデータだ、IoTだとメディアにもいろいろ書かれていて、みんな気にしてはいますよね。でも、『だからデータ分析が必要です』というプレゼン資料を作っていくら説明しても、それが本当に経営にとって必要だと確信するまではなかなかいかない。『実際に自分の会社のビジネスに役立った』という経験があって初めて腹落ちするんじゃないでしょうか」(同)
IT技術者の地位を高め、憧れの職業にする努力を
自社でデータやITをもっと活用したいけれど、それを担える人材がいないという悩みを持つ経営者やマネジャーも多いのではないだろうか。その点について河本さんは、特に大企業において、素質のある人材を生かしきれていないのが問題ではないかと指摘する。
「日本の労働市場はまだ流動性も低いですから、有望な人材の大半は大企業に行っているんです。ですが、そういう人材が会社の中で働くうちに、技術へのこだわりや専門力を失ってしまうような状況があると思います。
今、必要とされる人材は、ものすごい勢いで進化しているIT技術に対して『自社ではどう使えるか』という技術の目利きをできる人なんですね。そういう人材は、ヤフーやアマゾンといった大手IT系企業だけでなく、一般の企業でも必要とされているのですが、日本の企業ではなかなか育ちにくい。その原因の1つとして、ITや分析を担当している人間の地位が低いということがあるように思います。憧れの職業になれば、そこを目指そうという人も増えてくるはずですから。
このことは私がマネジメントをする上でも重要視しています。例えば、こうやって取材を受けたり講演をしたり本を書いたりというのも、こうした活動によってうちのデータ分析チームが有名になったらメンバーはうれしいと思うからなんです。モチベーションのマネジメントがとても重要だと思いますので、われわれのチームで専門家として仕事をすることが自分のキャリアアップになると感じてもらえるように努力しています」(同)
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