ITの力で“漆黒”の質感を再現 NECは「漆プラスチック」をどう開発したか(2/2 ページ)
日本の伝統工芸品、漆器の質感や美しさを再現するバイオプラスチックをNECが開発。その裏には、“漆黒”の色合いや質感をどう数値化するか、という大きなチャレンジがあった。
“漆黒”を数値化するというチャレンジ
漆器は着色や塗布、表面研磨を繰り返し行うことで、極めて低い明度(漆黒)でありながら、鏡面に匹敵するレベルの光沢度を持っているのが特徴だ。表面処理をした炭素微粒子や高い屈折率を持つ有機成分を、樹脂に配合することで漆器に近い外観と光学特性を実現したという。
通常のプラスチックと同様、ペレットを溶融して、鏡面加工した金型で成形できるため、電子機器や家電、自動車の内装や建材といった、さまざまな製品を作ることが可能だ。今後は漆ブラックに近い光学特性を追求するとともに、強度や成形性、量産化にむけて開発を進めていくとしている。
「漆の特性について、明度と光沢度という点では数値化できましたが、漆特有の深さや温かさといった特徴はまだ数値化できていないのが現状で、下出さんの感覚による評価しかできません。今後は他の要素についても評価法を確立するとともに、赤色なども表現できるよう、研究を進めます」(同社 IoTデバイス研究所 主席研究員 位地正年氏)
日本の「漆文化」を再び世界へ
開発に協力した漆芸家、下出祐太郎氏もバイオプラスチックに寄せる期待は大きい。日本で発展した塗装材として漆は長い歴史があり、戦国時代から海を渡って、海外でも高い評価を受けていたという。しかし、量産化が難しく、近年は漆器や蒔絵の文化をどう継承していくかという点で大きな課題を抱えている。
成形も自由に行える汎用的な素材として、バイオプラスチックは漆の美しさを再認識してもらえるきっかけになると下出氏は話す。
「今回開発したバイオプラスチックに点数を付けるとしたら80点ぐらいでしょうか。まだまだ漆器に近づけられると思っています。欧米で合成塗料が生まれてからも、漆が生み出す黒は憧れの的であり、ピアノブラックのモデルとなりました。
約470年前からヨーロッパの王侯貴族を魅了した漆器は“ジャパン”と呼ばれていました。今回のプラスチックは漆の国、日本だからこそ開発できたもの。今、満を持してもう一度、漆文化を世界に発信できるチャンスだと思っています」
近年はデータ分析技術が進化し、匠の勘と経験、そして技術を数値化する試みは各所で行われている。それを汎用化したり、後世に伝えるだけではなく、世界へと発信していくのも重要な取り組みだろう。日本の伝統工芸を守る力として、ITの存在感はますます高まってきている。
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