第16回 運用後に知るクラウドの注意点と「クラウドホッピング」という課題:データで戦う企業のためのIT処方箋(2/2 ページ)
「持つIT」と違って必要な時に必要なだけ使える「使うIT」のクラウド。活用には、選び方だけでなく使い方でも違う考え方が必要です。今回は運用を始めてから気付く事前に見落としやすいポイントを説明します。
新しい課題「クラウドホッピング」とは?
日本におけるクラウド利用の現状として、「オンプレミスからクラウドへ」、または「データセンター(ホスティング/ハウジング)からクラウドへ」という流れが主流です。一方、AWSやAzureをはじめとした大手クラウドが生まれた米国をはじめ、活用が進んでいる海外はどうでしょうか。
米国では、2008年頃にクラウドの考え方が登場し、2010年にはほぼ全ての大手調査会社が個別の新市場として取り上げるほどの規模になりました。当時は、「メガクラウド」と分類されるAWS、Azure、Google Cloud、IBM SoftLayerといった大手CSPが積極的に事業を展開し、まずは企業の中にあるオンプレミスシステムをクラウドに引き込むことが最重要課題でした。
それから数年がたった今、クラウドは当たり前の存在になりましたが、その一方でシステム種別により発生する向き・不向きや、利用しているクラウドの特徴(できること・できないこと)が自社のシステム運用に向かないと判断する企業も出てきました。
その結果、「クラウドからオンプレミス(またはプライベートクラウド)へ」や、「クラウドから(別の)クラウドへ」といった移行が非常に活発に実施されています。このようなクラウド間を行ったり来たりする様子ととらえて、「クラウドホッピング」という用語が生まれています。
ある調査会社によれば、2015年度の米国企業動向として、クラウドを利用している企業のうち一周回ってオンプレミスへの移行(回帰)を検討している企業が十数%に上るほか、3割を超える企業がクラウドの変更を検討しているという結果が出ています。
オンプレミスへの回帰を進めている理由には、コスト面とSLAへの対応が挙げられています。
コスト面は「思ったより高かった」、または「安くならなかった」という分かりやすい内容のほか、主に大企業でOpenStackなどのプライベートクラウドを構築する技術が一般的になったことにより、わざわざ社外のクラウドにシステムを持って行かなくても自社内で同等の効率化が図れるようになる、という点が理由の上位にあります。
SLAへの対応は、先に挙げたデータ保護の観点のほか、性能や可用性を実現する機能の不足、期待値とのかい離が主な理由に挙げられています。いずれの場合も、クラウドを利用し始めて気付いた期待値との差異に加え、商用製品、オープンソースともに技術が進歩してきたことで、ユーザー企業にとって新しい選択肢が取れるようになったことを示しているといえます。
日本は米国と比べて、クラウドの利用方法や適用範囲自体が既に効率化が図られていたり制限されたりしていることもあって、米国ほどに大きなトレンドにはなっていません。しかし、現時点で既に中堅・大手企業を中心に、現在利用しているクラウドやIaaSなどのデーセンターサービスについて、サービス間の移行は着実に増えてきています。
しかし、サービス間では提供している機能やサービスレベルが異なることも多く、システムやデータの変換(コンバート)、データの伝送といった作業が必要となり、「手間がかかる」「難易度が高い」といった課題が存在します。
この「クラウドホッピング」という課題については、商用のマイグレーションツールによる対応のほか、プロフェッショナルサービスやSaaS型などのサービスとして提供する事業者が出てきています。次の表はその一例です。
この他にも、CSPやSIerがさまざまなツールやノウハウを利用して、ユーザー企業の課題を解決するサービスを提供しています。
ただし、上述のように日本ではこれからの分野であり、また、システム移行自体も技術的に難易度の高いプロジェクトになることから、現状では簡単に判断できる情報が潤沢にある状態ではありません。対応できるシステム規模や環境もこれまた多岐にわたるため、闇雲に調べるのではなく、同業他社やCSPから実績を基にした紹介を受けたソリューションから利用を検討するとよいでしょう。
クラウドといっても技術の進歩やサービスラインアップの変更により、いま利用している環境が利用できなくなる、または新しいサービスと比べて見劣りする、という状況は今後も継続して発生します。どのCSPもこういった変更ができる限りユーザー企業の利用に影響を与えない基盤を実現し、提供することを目指していますが、残念ながら100%ではありません。少なくとも、仮想マシンの移動はどのような構成、環境でも必要になります。
ですので、現在米国で課題として挙がっている事象をいまから認識しておき、それに対する備えを持っておくことは、今後数年、十年とITシステムを運用するうえで非常に強みになります。まずは現在利用しているクラウド事業者やSIerに、このような課題に対するツールやサービスがあるか確認することから始めるとよいでしょう。
今回はクラウド運用時に最も見落としがち、軽視しがちなポイントを紹介しました。これ以外にもクラウド運用ではさまざまなノウハウが必要ですが、ユーザー企業はなかなか最新情報を入手できないことも多くあります。
こういった課題に対して、情報の入手元として最もユーザー企業に近い存在がSIerやクラウドインテグレーター(CIer)です。次回は、SIerやCIerはどう違うのか、また、どのように付き合うとよいのかについて説明したいと思います。
関連記事
- 第15回 これからクラウド導入する際の注意点、お金と使い方の関係
「使うIT」の代表がクラウドです。AWSやAzureなどさまざまな事業者がサービスを提供していますが、どうやって選ぶとよいのでしょうか。今回はデータが増え続ける中で、「持つIT」と違うところや注意すべきところ、選定時のキーポイントを説明します。 - 第14回 企業規模でみるシステム運用管理のアウトソーシング方法
ITシステムをMSPへアウトソースする際に、IT部門が考慮しなければならない点はたくさんあります。今回は自社の規模という視点からMSPに対するアプローチの方法を紹介します。 - 第13回 システムの運用管理を外部委託するときにIT部門がやるべきこと
ITシステムを自前で管理することは自由度や変更の俊敏さにつながりますが、日々の運用で精一杯の状況では新しい技術の習得などが難しいもの。アウトソースはIT部門の負担を減らす古くからの解決策ですが、丸投げではシステムの柔軟性が損なわれるだけです。今回はデータ爆発時代に合わせてどう変えていくべきかを紹介します。 - 第12回 システムやデータの運用管理を自前でするためにIT部門がすべきこと
ユーザー企業にとってITシステムの管理は、本業とは異なる単純な負担と考えられてきました。しかし、クラウド活用の広がりから業務部門も巻き込む新たな役割が期待されています。今回は増大していくITインフラを自社で管理をする際に必要な対策を紹介します。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.