コレ1枚で分かる「知性の発達と人工知能の発展」:即席!3分で分かるITトレンド(2/2 ページ)
人工知能を“知性の発達”という側面から捉え、人間の知性の発達と比べてみると、その特徴と課題が見えてきます。
1980年代に入り、「エキスパートシステム」が登場します。これは、特定分野に絞り、その専門家の知識やノウハウをルール化し、コンピュータに処理させようというものでした。
例えば、計測結果から化合物の種類を特定する、複雑なコンピュータのハードウェアやソフトウェアの構成を過不足なく組み合わせるなど、特定の領域に限れば、実用で成果を上げられるようになったのです。
しかし、これもまた辞書やルールを人間が全て与えなくてはならず、限界に行き当たることになります。ものごとを論理的に記述し、知的処理を機械に行わせようという取り組みは再び頓挫することになったのです。
2000年代に入り、さまざまな、そして膨大なデータがインターネット上に集まるようになりました。また、コンピュータは、かつてとは比べられないほどに性能を向上させていきました。
そこで、特定の業務や分野でのデータを解析し、その結果から分類や区別、判断や予測を行うための規則性やルールを見つけ出す手法「機械学習」が登場します。
「機械学習」以前は、先の説明の通り、人間がルールを記述し「論理的に思考」させようというアプローチが主流でした。しかし、「機械学習」はデータの相互の関係から規則性あるいはパターンを見つけ出そうというもので、「感覚的に思考させよう」というアプローチといえるでしょう。
現在、最新の脳科学の研究成果を取り入れ、この感覚的思考の精度を高めようという機械学習のアプローチ「ディープラーニング(深層学習)」に注目が集まっています。この新たな取り組みは、これまでの人工知能の研究成果の限界をことごとく打ち破っています。そして、実用においても、これまでにない多くの成果を上げつつあります。
このように人工知能の研究は、論理的思考から感覚的思考へと発展してきたといえるでしょう。しかし、心と身体の状態とその間の関係、つまり非物質的である心というものがどうして物質的な肉体に影響を与えることができるのか、そしてまたその逆もいかに可能なのかは、解明されていません。また、意識や意欲なども同様に、それ自体が解明できておらず、コンピュータ上で実装しようがないのです。
このように見ていくと、人工知能研究の次のテーマは、「心身問題の解決」ということになるのでしょうか。事実、この問題に取り組む研究者たちもいますが、いまだ決定的な解決策は見出ていません。さて、これからどんな成果が出てくるのか、興味は尽きません。
著者プロフィル:斎藤昌義
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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