なぜ、MSは「Dynamics 365」でERPとCRMを統合したのか:Weekly Memo(2/2 ページ)
マイクロソフトがERPとCRMを統合したクラウド型業務アプリケーション「Microsoft Dynamics 365」を提供開始した。両分野を統合した製品が登場したのはこれが初めてだ。同社の狙いはどこにあるのか。
Dynamics 365で勝負する“土俵”を変えたマイクロソフト
こうした特徴を持つDynamics 365だが、マイクロソフトがこの新製品を投入したのは、業務アプリケーション事業のテコ入れに乗り出したとも受け取れる。
同社は先にも触れたように、これまで業務アプリケーション分野でDynamics AXやDynamics CRM Onlineに代表されるDynamics製品を展開してきており、沼本氏によると「グローバルで数千億円の事業規模になっており、ここ数年はフタ桁の伸びを続けている成長分野」だという。
「Dynamics 365は、その成長をさらに加速させるもの」(沼本氏)ではあるが、一方でERPおよびCRM市場におけるベンダーの勢力図を見ると、グローバルではSAP、Oracle、Salesforce.comといった競合が立ちはだかり、日本ではさらに国産ベンダーも競争相手となっている。そうした中で、マイクロソフトは以前から、この分野でシェアトップになると言い続けてきたが、これまでのところ実現していない。
事業のテコ入れに乗り出したとも受け取れるのは、そうした背景があるからだ。とはいえ、成長への加速であれテコ入れであれ、重要なのは新たな戦略だ。その意味で、Dynamics 365は非常に興味深い。なぜならば、ERPとCRMを統合した製品が登場したのはこれが初めてだからだ。
この点について、沼本氏は顧客向けイベントの後で行った記者会見で、「ERPとCRMを合わせた市場では、シェアの高い製品は存在しない」と語った。確かに、ERPではSAP製品、CRMではSalesforce.comのサービスが高いシェアを占めているが、ERPとCRMの統合製品は新しい領域だ。
これは何を意味するのか。つまり、マイクロソフトはこの分野において、勝負する“土俵”を変えようとしているのだ。同社がDynamics 365を投入した狙いはそこにある。しかもそれが「ベンダー目線でなくユーザー目線」というのが、同社の大義名分である。
ただ、沼本氏は「ERPとCRMの分野は他社製品との競合もさることながら、手組みのシステムを使用しているユーザーも少なくない。そうしたユーザーにDynamics 365を利用していただけるようにさまざまな提案を行っていきたい」とも話した。この点も重要なポイントである。
とはいえ、マイクロソフトがこの分野でシェアトップになると言い続けてきた印象が強い筆者は、会見で「競合を打ち負かす覚悟はあるか」と少々挑発的に聞いてみた。すると沼本氏は次のように答えた。
「Dynamics 365にはこれまで巨額の開発投資をしてきた。激戦市場を勝ち抜くために最大の努力を尽くす。これまでDynamics製品は社内でも個別の事業として展開してきたが、これからはエンタープライズ事業の中核製品として注力していく。十分に気合いは入っている」
「覚悟」に対して「気合い」という言葉で答えてくれた沼本氏のマーケティング責任者としての手腕にも大いに注目しておきたい。
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