「メモリ主導型コンピューティング」が実現すると起こること:「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(1/2 ページ)
本連載で紹介しているメモリ主導型コンピューティングは、大量のデータへの高速かつさまざまなアクセスがランダムに発生する用途に特に効果的です。今回もメモリ主導型コンピューティングによって実現するかもしれない世界を紹介しましょう。
この連載で紹介してきた「メモリ主導型コンピューティング」は、実際にどのようなシーンで効果的なのでしょうか。今回は、このメモリ主導型コンピューティングで実現するかもしれない世界を、2つの例でご紹介してみたいと思います。
個々人に最適な広告を瞬時に判定
2020年、東京オリンピックを契機に、国内外含めて多くの人々が東京に来ることが予想されます。この大量に増える個人のそれぞれに対して、適切な広告を打つことができれば、企業は一時的な人口増加から、より多くの恩恵を受けられるに違いありません。
ですが、今日のデジタルマーケティングは、すでにさまざまな問題にさらされています。現代では、多くの人がパーソナルなデバイスを持っており、オンラインサービスにはいわゆる“オフライン”になる時間というのがありません。いついかなる時に情報が必要とされるかが分からない、つまり何らかの形で情報を提供し続けなければならないのがデジタルマーケティングの現状です。したがってこの業界は膨大な情報からリアルタイムに的確な情報を提供するために、非常に多くの計算能力を必要としており、すでにコンピュータインフラストラクチャの限界に直面しているのです。
さらにこのデジタルマーケティング業界は、強力なライバル同士がしのぎを削っているため、現状に落ち着いている訳にもいきません。広告主やサイト運営者、そして顧客自身の期待に応えられるように検索をカスタマイズするためには、ユーザーのニーズをいち早く予測する方法を常に模索することが、生き残りと成長に大きく関わっているのです。
しかし、メモリ主導型コンピューティングであれば、広大なメモリ空間が得られるため、1カ所に膨大な量のデータを取り込んで保存し、分析できるようになります。これなら、今までよりも圧倒的に短い時間で、適切に表示する広告を決定できるようになるでしょう。
例えば、前日に夕食を取る店を検索した結果に基づいて、今日も昨日のお店と似たようなお店が検索結果の一番上に出てきたことはないでしょうか。でも、普通の人なら今晩食べたいものは昨晩とは違いますし、昼食に何を取ったかによっても食べたいものは変わります。ですので、こうした過去の傾向に基づいた広告を出されても、見る人には響かないどころか、逆に腹を立てられてしまうこともあるでしょう。ECサイトで買い物をすると、その後しばらく、すでに買ったものを何度もお勧めされることがありますが、これも無駄な広告だといえます。
広告主は、本来こういった客の役に立たない、あるいは逆に客の神経を逆なでしてしまうような広告は出したくないはずです。より適切に、個々人の今の状態にピタリと合った、品質の高いサービスを提供したいと考えるでしょう。
実際に集めてくるデータの量や質に大きく依存しますが、例えばスマートフォンなら、一人一人のユーザーがどんなアプリケーションをどのように操作したかの履歴、何を検索したか、どこにいたか、今何をしているか、といった情報を集め、メモリ主導型コンピューティングにより高速に検索することで、個々人に合った広告の提示が可能になります。データベースに保存されているデータから得られる知見だけでなく、ユーザーの行動パターンから得られる気付きや、今までさまざまなところで行ってきた行動など、日々の振る舞いを元にして、より迅速で正確に個人に寄り添ったサービスを展開できるようになるはずです。
データを大量に集めて高速に分析ができれば、「今隣の人がおいしそうなパンを食べているので、この人はパンを食べたい気分になっているはずだ」といったことまで、もしかすると推測できてしまうかもしれません。そんな時に、近場のおいしいパン屋さんの広告が出てきたら、私は買いたい衝動を抑えられる自信がありません。たとえ知らない都市にいたとしても、そんなすてきな情報ならまず飛び付いてしまうでしょう。
メモリ主導型コンピューティングによる分析は、直接的に分かる範囲を超えて、より正確な予測が可能になります。これなら意味のあるパーソナライゼーション、つまり、それぞれの個人に合ったサービスを提供することができるようになります。
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