三度目の正直? ARM版Windows 10は離陸するのか:Enterprise IT Kaleidoscope(3/3 ページ)
Microsoftは、ARMプロセッサに対応したWindows OSに、何度か挑戦している。Windows 8をベースとした「Windows RT」、スマートフォン向けの「Windows 10 Mobile」などがそれだ。しかし、残念ながらほとんど使われていない。では2017年内に発売予定のARM版Windows 10はどうなのだろうか。
Snapdragon 835を採用することで得られるメリット
ARM版Windows 10は、最初はQualcommのSnapdragon 835が動作プラットフォームとなる。Windows 10 MobileがサポートしているSnapdragon 820/617は対象外となりそうだ。
Snapdragon 835は、Qualcommのプロセッサとしてはハイエンドモデルとなるため高コストだ。実際、Snapdragon 835を使ったスマートフォンは、軒並み10万円ほどの製品となっている。
Qualcommでは、ARM版Windows 10が動作するプラットフォームとしては、2in1タブレットもしくは、超薄型で軽いノートPCになると予想している(スマートフォンなどのカテゴリーではない)。また、Snapdragon 835を採用したスマートフォンの価格から見れば、10万円〜15万円ほどの値段になるのではと予想される(製品のスペックによっては、10万円を切る製品があるかもしれない)。
OSは、Windows 10 Mobileなどと同じく、PCにプリインストールする形で入ることになる(ARM版Windows 10のパッケージやARMプロセッサを使用したマザーボード単体は販売されないだろう)。
価格面からみれば、IntelのCore MシリーズやCore iシリーズを搭載する製品とそれほど変わらないだろう。ただ、ARM版Windows 10では、Snapdragon 835プロセッサと通信チップのX16の組み合わせが利用できるので、常にネットワークに接続できるノートPC/タブレットになるだろう。
Microsoftは、Computexにおいて、Always Connected PCというコンセプトを打ち出している。スマートフォンで使われている、Snapdragon 835プロセッサとLTEをサポートした通信チップX16の組み合わせにより、常にネットワークに接続していても、長時間のバッテリー動作を可能にする(Always Connected PCは、Qualcommだけでなく、Intelとも協力している)。
Always Connected PCは、eSIMを搭載することで、SIMカードを入れなくても、Windows上から通信キャリアとの契約もできる。海外に持っていったときにも、海外の通信キャリアが旅行者向けの料金プランを用意していれば、その料金プランを契約するだけで、すぐにでも海外で通信を行うことが可能になるかもしれない。
ARM版Windows 10を搭載したPCやタブレットは、Lenovo、HP、ASUSなどが2017年の年末商戦までに発売する予定だ。
Sanpdragon 835を使ったデバイスは、Connected Standbyにより、スタンバイ状態で通信を行ったり、Cortanaに話しかけることでデバイスを起動したりすることができる。さらに、低消費電力を実現している(Qualcommの発表資料から転載)
Snapdragon 835のConnected Standbyは、ライバル企業のプロセッサよりも省電力化が行われている。同じバッテリー容量でも、ライバルのプロセッサより4〜5倍の長時間スタンバイが維持できる(Qualcommの発表資料よりから転載)
ARM版Windows 10については、企業では当面は様子見になるだろう。MicrosoftはフルスペックのWindows 10だと言っているが、実際にリリースされるまで、本当に制限がないのか、といった点を確認する必要がある。また、社内で利用している業務アプリケーション(Win32)が本当に動作するのか、満足いくパフォーマンスで動作するのかなどもチェックする必要がある。
ただ多くの社員は、Officeソフトなどを利用していることが多いため、ARM版Windows 10でも問題は少ないだろう。独自開発の業務アプリケーションも、マルチデバイス対応ということを考えれば、Webアプリケーション化されているなら、問題は起こらないと思われる。
ARM版Windows 10は、なによりも低消費電力で高い性能を持つARMプロセッサと、各国キャリアの認証を取得しているQualcommの通信チップを使うことで、全世界どこに行っても通信しながら、バッテリーで長時間動作するPCやタブレットが手に入ることが強み。この点は、企業にとってもメリットがある。
不確定要素としては、IntelがARM版Windowsでのx86エミュレーション機能に関して、自社の権利を侵害している可能性があると懸念していることだ。最終的に製品がリリースされていないため、懸念という状態だが、製品化された時に訴訟も辞さず、という態度を表明している。このあたりは、実際にARM版Windows 10がリリースされてからの推移を見守る必要があるだろう。個人的には、MicrosoftとIntelが何らかの折り合いを付けると思っている。
まずは、2017年の年末商戦にでてくる製品を見る必要がある。2018年にはARM版Windows 10が動作するプロセッサの種類も増えてきて、低価格化していくだろう。本格的に企業で導入するなら、2018年から2019年になるのだろう。
関連記事
- Intel、「x86のエミュレーションは特許侵害」とARM版Windows 10に牽制
MicrosoftとQualcommが発表した「Snapdragon 835」搭載Windows 10ノートの発売を前に、Intelがx86 ISAのエミュレーションは特許侵害の恐れがあると、誰にともなく警告した。 - Windows 10は単なるWindows 7の移行先? 真価を問われる2017年
リリースから1年半が経過したWindows 10にとって、Windows 7のサポートが終了する2020年までのこれから3年間は、まさに真価を問われることになるだろう。Microsoftはどんな施策を考えているのか。 - Windows 10のエディションにみるデバイス事情
ついにWindows 10のエディションも発表され、夏のリリースに向けて着々と準備が進んでいる。今回はWindows 10の各エディションと今後のコンピューティング環境を紐解いてみたい。 - Windows 10 Fall Creators Updateの影響を考える
Windows 10のアップデートが、春と秋の年2回、定期的に行われることになった。次のFall Creators Updateの機能については、まだ全貌が見えたわけではないが、企業ユーザーにどんな影響があるのか考えてみよう。 - Windows 10 Creators Updateで、UWPアプリへのシフトが加速する
そろそろ配信が始まると予想される「Windows 10 Creators Update」では、古いWin32ベースのアプリケーションソフトのインストールを制限する機能が提供される。企業向けには、別のストアを用意できるようになっている。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.