創業63年、箱根の老舗ホテルが人工知能を導入した理由:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(1/4 ページ)
公式Webページに機械学習を使ったFAQシステムを導入した、箱根の老舗ホテル「ホテルおかだ」。こうした最新ITを導入する裏には、旅行業界における大きなビジネスモデルの変化があった。
箱根湯本にある創業63年の老舗ホテル「ホテルおかだ」。AIを導入するなど積極的なIT活用を進めているが、その中心となっているのは営業部長の原洋平さんだ。原さんは、NECにも勤めたエンジニアだったが、生まれ育った旅館に戻り、仕事の中で見つけた業務課題を自作のITツールで改善していた。
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そんな中で起こった「東日本大震災」をきっかけに、ホテル経営、そしてITに対する原さんの考えは変わっていった。業務現場の課題を解決するだけではなく、ホテル全体に良い影響を与える手段として、IT活用の可能性を見いだしたのだ。
「個人化」と「オンライン化」が進む旅行業界
原さんは現在、営業部長として売り上げや収益の分析も行っている。使っているツールはもちろん自作のものだ。集客チャネルから最終的な営業利益まで、さまざまな要素の関係を、細かく可視化したのが特徴という。実績を細かく確認できるほか、収益構造をデータ化して分析することで、どのように集客を行えば利益を高められるかを検討するのがその狙いだ。“どんぶり勘定”を排し、経験からくる判断ミスをなくす効果もある。
「社員のリソースや顧客満足度を踏まえて集計結果を分析したところ、狙うべきターゲットを変えていく必要があると感じました。もともと、弊社は企業の団体旅行をメインに集客をしており、顧客の6割以上が団体客でしたが、昨今のトレンドや収益最大化を考えると、より個人にフォーカスし、リピーターと単価を増やす戦略に切り替えた方がよいと考えたのです」(原さん)
一度に多くの売り上げを確保できるという点で、団体客にはメリットもあるが、原さんの分析では、最も収益に影響を及ぼす要素は“客単価”だった。
「人数が増えても単価が下がれば総利益は下がる」。原さんはこれまでもそのように感じてはいたものの、実行には大きなリスクを伴うこともあり、決断をためらっていた。しかし、収益構造を把握したことで、人数が減っても総利益が上がるシミュレーションを数値化できるようになり、具体的な戦略にまで落とし込むことができたのだ。
個人客を重視する戦略を提案した際、財務担当者には反対されたが、社長が賛成したことでプロジェクトが進み、わずか1年で利益は大きく改善されたという。
「実際、2009年くらいから団体旅行の需要が冷え込んできているように感じていました。一方、オンライン個人旅行の市場は大きく伸びています。楽天、じゃらんやBooking.com、最近ではトリバゴなど、宿泊施設の予約サービスが充実したためです。リピーターが顧客の大半を占めるような宿ならば話は別ですが、ウチのように新規もリピーターも必要、というビジネスモデルならば、メインストリームの客層に合わせて戦略を変えなければ、すぐに厳しい状況に追い込まれてしまうと思います」(原さん)
個人化とオンライン化が進み、予約チャネルが増えたことで新たな集客ができるようになった一方でオペレーションの負荷が高まっている旅行業界。しかし、このトレンドは他にも大きな課題を突き付けた。「キャンセル」の問題だ。
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