「シンギュラリティは心配無用」――富士通研究所が挑むAIの最先端:Weekly Memo(1/2 ページ)
富士通のAI技術の研究開発はどこまで進んでいるのか。果たして世界に通用するのか。富士通研究所が先週開いた研究開発戦略説明会から、AIへの取り組みに注目してみた。
社会課題の解決は最終的に人間が判断すべき
「シンギュラリティは心配しなくていい」――。こう語るのは、富士通の研究開発子会社である富士通研究所の佐々木繁社長だ。同社が9月20日に開いた研究開発戦略説明会でのひとコマである。
シンギュラリティとは、人工知能(AI)が人間の知性や能力を上回ることで「技術的特異点」と訳され、2045年にもその時が訪れるとされている。その現象を表した言葉だが、人の仕事を奪うといった刺激的な動きの象徴的な表現に使われることも少なくない。
そのシンギュラリティに対して「心配しなくていい」とはどういうことか。それをひもとくために、佐々木氏の話について少々順を追って紹介しておこう。
まず、富士通研究所では特に次の8つの技術分野で最先端を行っているという。同社による技術名(英語名)も合わせて列記すると、量子コンピューティング技術の「Digital Annealer」、説明可能なAIの「Deep Tensor/Knowledge Graph」、異業種をつなぐデータドリブン・プラットフォームの「Connected Digital Place」、つながるものを飛躍的に拡大する「Zero Limitation Networking」、つながる世界へシステムを革新する「Microservice Transformation」、データの信頼性を確保する「Borderless IoT Security」、人間の感覚・感性・錯覚を理解し協調する「Nine-Sensecomputing」、フィジカルとケミカルを融合する「Materials Informatics」といった分野だ。
そして、同社はこれらの研究開発に共通して、「人とヒューマンセントリックなICTとの協調」を掲げている。図1に示したのがその考え方で、「ICTとAIが得意とするのは専門分野。その能力の活用範囲は広がっていくだろうが、一方でさまざまな意思決定が必要な社会課題の解決は、最終的に人間が判断しなければいけない仕組みをつくるべきだ」と佐々木氏はいう。
図1では、それが人間とAIとICTによる「Human in the loop」と表現されている。これをして佐々木氏は、「ICTやAIは、あくまでも最終的な判断を行う人をエンパワーメントする技術。従って、シンギュラリティは心配しなくていい。私たちはそういう技術の研究開発に今後も注力していく」と強調した。冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。
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