「シンギュラリティは心配無用」――富士通研究所が挑むAIの最先端:Weekly Memo(2/2 ページ)
富士通のAI技術の研究開発はどこまで進んでいるのか。果たして世界に通用するのか。富士通研究所が先週開いた研究開発戦略説明会から、AIへの取り組みに注目してみた。
ブラックボックスから“説明可能なAI”の実現へ
そうした人をエンパワーメントする技術として、富士通研究所は今回の戦略説明会を機に幾つかの研究開発成果を発表した。ここでは、その中から先述の先端技術の1つにも挙げられている説明可能なAIの「Deep Tensor/Knowledge Graph」に注目したい。
実は、Deep Tensor(ディープテンソル)は人やモノのつながりを表現する「グラフ構造」のデータを高精度に解析できる機械学習技術として、1年前に発表されたものだ。この技術については、2016年10月24日掲載の本コラム「ディープラーニングを超える――富士通研究所のDeep Tensorは世界に通用するか」で解説しているので参照いただきたい。
今回はそのDeep Tensorと、学術文献など専門的な知識を蓄積したKnowledge Graph(ナレッジグラフ)と呼ばれるグラフ構造の知識ベースを関連づけることにより、大量のデータを学習させたAIの推定結果から推定理由や学術的な根拠を提示する技術を開発したという。
この技術開発の背景として、同社では「ディープラーニングなどの機械学習技術の活用が広がる一方で、これらの技術は推定結果が得られた理由を人間が検証することが困難なため、AIを使った専門家の判断に関して説明責任が問われる医療や金融などのミッションクリティカルな領域などへの適用に課題があった」としている。すなわち、これまでは「ブラックボックス型のAI」だったのである。
それに対し、今回の新技術では、AIの推定結果に対する理由や根拠として得られた学術文献などの専門的な知識をもとに、専門家がAIの推定結果が信頼に値するかを確認できるとともに、得られた結果を手掛かりに新しい知見を得ることができるようになるなど、専門家がAIと協調して問題解決する世界が実現するとしている。
なお、この新技術は、Deep Tensorが2017年度内に富士通のAI技術群「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」にて実用化されるのに続き、2018年度内に同様の形で実用化される予定だ。(図2)
佐々木氏は今回の新技術について、「説明可能なAIについては、これまでDeep Tensorとともにおよそ20年前から技術を蓄積してきており、他社を大きくリードしている」と力を込めた。
Deep Tensorおよび今回の説明可能なAIは、果たして世界に通用するものとなるか。そのカギとなるのは、富士通が世界に向けてさまざまな形で強力に発信し続けていくことと、研究開発においてもビジネスにおいても「仲間作り」を積極的に行っていくことだと筆者は考える。
人をエンパワーメントする技術だからこそ、シンギュラリティも過剰に気にしなくていい――。そんな発想の富士通には「日本発のAI」として大いに奮闘してもらいたい。
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