三井住友海上のRPA導入、そのキーマンは知る人ぞ知るExcel VBAマスターだった:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(4/4 ページ)
わずか1年足らずでRPAの導入に成功した三井住友海上。導入を主導した近田さんは、ビジネスとIT、両者の知見を持つ特異なキャリアと「Excel VBAマスター」という、これまた保険営業らしからぬ、特異なスキルを持った人物だった。
営業推進部から、会社のIT戦略を担う経営企画部へ
営業部を約10年、営業推進部を約10年勤めた近田さんは、この2016年4月から経営企画部内に設置されたICT戦略チームに異動になった。同チームは最新ICTの調査研究を行い、オープンイノベーションを実践する組織だという。
「基幹システムを中心とした大規模なシステムは、パートナーのSIerとともに構築や運用のプロジェクトを進めるため、社内のIT部門は企画運営や予算管理といった役割がメインとなることが多いです。そのため、新たな技術を調査研究し、ビジネスに取り入れるということをミッションとする、部署があった方がよいということになりました」(近田さん)
ICT戦略チームは、経営企画部部長でチーム長の川津さん、課長の近田さん、課長代理の岡さんと、本社の商品本部、営業事務部、損害サービス業務部、営業企画部を兼務している4人の合計7人体制で動いている。RPAに限らず、AI、フィンテック、ブロックチェーンなどの調査研究も進めているそうだ。
Excel VBAマスターとして、ビジネス部門にいながらITツールを作り続け、開発ユニットのリーダーを経験するなど、さまざまな経験を積んだ今、会社のIT戦略に携わる立場になった近田さん。そのキャリアは、常にビジネスとITの境界線を進み続けているように思える。
「ワンクリックツールの立ち上げや、経営企画部におけるRPAの導入検討もそうですが、企画当初の段階からビジネス部門もシステム部門も、関係する社員全員が前向きに動いてくれた。これは三井住友海上の社風と言ってもいいかもしれません。そんな中で、第一線の業務プロセス経験を生かして、システムサイドとビジネスサイドの“通訳”を行うことで、プロジェクトの進行をスムーズにできるというメリットはありますね。
ビジネスとIT、両者の話が通じ合っていないままプロジェクトを進めると、誰にも必要とされないシステムができてしまう……というのはよくある話ですが、それを防ぐために、要件定義をしっかり行うというのが、一般的なシステム企画や構築のセオリーでしょう。しかし、それを完璧に行うためには多額のコストと長い時間がかかりますよね。両者の間をつなぐ社員がいれば、情報や要件を正確に共有でき、それらのコストを下げるとともに、実現時期も早めることができるように思います」(近田さん)
近田さんのスキルや資質が特異であることは否めない。しかし、業務プロセスを知り、実際の現場でコミュニケーションを取り続けてきた経験が「今、会社に必要とされている情報システムが何か」という問いにつながっているのは確かだ。それが今、三井住友海上におけるデジタル変革の原動力の1つになっているのだろう。
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