三井住友海上のRPA導入、そのキーマンは知る人ぞ知るExcel VBAマスターだった:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(3/4 ページ)
わずか1年足らずでRPAの導入に成功した三井住友海上。導入を主導した近田さんは、ビジネスとIT、両者の知見を持つ特異なキャリアと「Excel VBAマスター」という、これまた保険営業らしからぬ、特異なスキルを持った人物だった。
「こうした取り組みは、最初からルールがあったわけではなく1つ1つ社内で論議し、調整していきました。システム部門の担当社員がPC操作自動化のメリットを理解してくれ、常に前向きに検討してくれたのも大きかったです。
もちろん、システム部門だけでなく、ビジネス部門のシステムオーナー部とも連携をしています。制御する対象が社内システムなので、各オーナーにも許可を得る必要があるためです。大量のトランザクションを送るとダウンしてしまう可能性もあるので、そういうことはしない、といった約束をチェックリストにまとめていきました。RPAで言う、ロボットを作るときの条件書みたいなものですね」(近田さん)
例えば、自動車保険の保険料システムを制御するロボットでは、対象システムのオーナーである自動車保険部に、そのロボットのオーナーにもなってもらい、検証も行ってもらう。彼らは最もシステムの挙動を熟知しているため的確な検証を行うことができる。彼らにとっても担当システムの機能向上につながるため、Win-Winの関係になっている。こうした関係性は、RPAソリューションを導入し、ロボット開発を進める際にも助けになったという。
RPAは現代によみがえった『小人の靴屋』
こうしたプロジェクト推進手法は、RPA導入の検討時にも生かされている。まず、ソリューション選定の際には、機能と作りやすさ、メンテナンスのしやすさを重視。1つ1つPoC版を入手し、共同でプロジェクトを進めるアクセンチュアと協力し、トライアルを行った。同じことができたとしても、そのプロセスやアプローチは異なる。「作り直しも相当あった」と振り返る。
「特に機能や性能の評価をしっかりと行いました。例えば『Outlookを使ったメール送信』という動作を1つ取っても、アプリケーション上の送信ボタンを押すロボットと、Outlookのsendmailメソッドを直接たたくロボットがある。実際に動いているところを見れば、送信ボタンを押しているのかどうか分かります。処理スピードの差も顕著に表れます。私がアクセンチュアさんに技術的な質問をしても、的確に答えてくれたので助かりました」(近田さん)
こうした評価が可能だったのも、内製ツールの開発で積み上げてきた経験から、何を優先すべきかがはっきりしていたためだ。そんな近田さんは、RPAを『小人の靴屋』だと表現する。
「RPAというのは、まさに現代によみがえった『小人の靴屋』です。おじいさんが営む靴屋に、夜になると小人が現れて靴を作ってくれる。つまり、人間がPC上で行う定型的な作業を代替してくれるもの。これがRPAの本質だと思っています」(近田さん)
関連記事
- Excelマクロで年間35万時間を削減、それでも三井住友海上がRPAを導入した理由
金融関連業界を中心に導入が広がりつつあるRPA。アクセンチュアと協力してRPAを導入した三井住友海上もそんな企業の1つ。しかし、同社はもともとExcelマクロを使った業務自動化を進めていた。彼らがExcelマクロに加えてRPAを導入した理由はどこにあるのか? - 月の半分以上がExcel作業 そんな住友林業のバックオフィスをRPAで変えた情シスたち
「技術が進化しているのに、頭を使わない作業が増えるのはなぜなのか」――。そんな住友林業の課題を解決したのは、情シスパワーとRPAだった。 - あなたの会社の人手不足を救うロボットーー「RPA」って何ですか?
「こんな雑用やってられるか!」――職場でこう言いたくなった経験がある人は多いのでは。最近ではこうした仕事を“ロボット”にやらせる「RPA」がトレンドになりつつあるという。業務改革を推進する企業にとって“現実解”ともいえる存在になりそうだ。 - RPAを導入する前に、最低限考えておきたい「3つのこと」
RPAはロボットに人間が行っている業務を代行させるという、非常に分かりやすいソリューションです。しかし、その分かりやすさゆえに、安易に手を出して失敗するケースも後を絶ちません。今回は検討段階において、最低限検討すべき3つの項目をご紹介します。 - 今さら聞けない、RPAとAI、botの違い
これからのITIL活用を考えるときに欠かせないRPA(Robotic Process Automation:ロボティクスプロセスオートメーション)について、似た技術であるAIやbotと比較しながら考察します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.