風神雷神図屏風を「HoloLens」で鑑賞――まるでアトラクションのような体験に驚いた:MR×文化財の可能性(2/3 ページ)
HoloLensを使って、日本の国宝である「風神雷神図屏風」の新たな鑑賞体験を――。そんなイベントが京都で開催されている。記者も実際に体験してみたが、従来の鑑賞とは全く異なる、1つの“アトラクション”のような感覚を味わった。
VRではなく「MR」を選んだ理由
風神雷神図屏風という“実体”に付け加える形で、さまざまな情報を表現できるのがMRの特長であり、それらをナビゲーター役である僧侶(の3DCG)を介してユーザーに提供していくという形にしたのが、本コンテンツの大きな特徴だ。音声だけで行われる解説とは異なり、作品の世界観に浸ることができるし、スタッフが来場者に何度も説明するような労力も減らせるだろう。
浅野氏は、自身の3DCGを作成するため、米シアトルのMicrosoft本社にあるMR専用3D撮影スタジオ「Microsoft Mixed Reality Capture Studios」に出向き、撮影を行ったそうだ。日本のプロジェクトで同スタジオを利用したのは初めてという。コンテンツ内に登場する同氏は、顔面に生えているひげまで精細に再現されており、動きもとてもスムーズだった。
コンテンツの制作を主導した、博報堂の須田和博氏も、ストーリーテリング(説明を物語にすることで、聞き手に印象付けさせる手法)をはじめとした演出にこだわったという。須田氏が、歴史観光のコンテンツをITで変えられないかと思ったのは約3年前。当時はVR(Virtual Reality=仮想現実)を使おうと思っていたという。
「VRでは視野を閉ざしてしまうので、わざわざ現地に行って、実物を見に行く意味がない点が気になっていた。1年ほど前に日本マイクロソフトと『Face Targeting AD』を開発した際に、HoloLensの話を聞き、実物を鑑賞しながら、新しい体験を提供できると思い付いた」(須田氏)
こうした取り組みに対して、建仁寺や京都国立博物館も好意的だ。コンテンツ制作にあたり、半年にわたって4回ほど打ち合わせを行い、コンテンツの撮影にも協力してきた。京都国立博物館 館長の佐々木丞平氏は「昔の人々は、建仁寺の中で風神雷神図屏風を鑑賞してきた。作品の背景や雰囲気なども味わってもらうためにはそれが理想的だが、現代ではそれが非常に難しい」と話す。
博物館の展示室にある作品単体では、どうしても背景にある情報などを感じるのは難しいと佐々木氏。しかし、作品を後世に伝え続けるには、博物館で保管せざるを得ないのも事実だ。実物の風神雷神図屏風は、京都国立博物館でも年に数日しか公開されないため、その世界感を体験できる機会は非常に限られてしまう。
佐々木氏は「ユネスコからも、博物館は教育的な役割を担うために、説明の方法などを工夫するべきだと勧告が出ている。MRはそうした動きに寄与する可能性を秘めた技術」と期待を寄せる。2019年には、ICOM(世界博物館会議)が京都で開催される予定で、140カ国から3000人の博物館関係者が集まるという。MRによる博物館鑑賞を体験してもらい、世界にアピールする狙いもある。
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