1年半でシステム刷新のクックパッド、怒濤の「5並列プロジェクト」に見る“世界で勝つためのシステム設計”:CIOへの道(3/4 ページ)
海外展開を視野に入れ、“世界で勝つためのシステム構築“に取り組むことになったクックパッド。海外企業を参考にプロジェクトを進める中、日本企業のシステムとそれを支える組織との間に大きな差があることを認識した同社は、どう動いたのか。また、分散と分断が進み、Excel職人が手作業で情報を連携している状態から、どのようにして統合された一貫性のあるシステムに移行したのか――。怒濤のプロジェクトの全容が対談で明らかに。
なぜ、「1年半で5並列刷新プロジェクトのシステム刷新」だったのか
白川氏 スライドを見ると、5つのプロジェクトを並列で1年半でやっていますよね。こうした大きなプロジェクトは、何年かかけて分散するのが一般的だと思うのですが、どうして短期間で全部やったんですか?
中野氏 そうですね。ちなみに、そもそもシステムを刷新するためのチームがなかったので、採用から始めてシステム部門を独立させ、部署を作って体制を構築したりもしていますね。それ以外にも、別チームと一緒にBIをTableauに統合する話に関わったりしたので、厳密には7並列くらいではないかと(笑)。
実は最初は「3カ年で変えましょう」と提案したのですよ。チームがなかった1年目はまず、採用を先行させ、ERPで基礎となる財務会計と人事コア・労務・勤怠を、2年目は管理会計とタレントマネジメント(評価システム)をやると。データ連携とアカウント連携基盤の統合は最初から走らせつつ……というような計画を持って行ったら「1年でやろう!」と(笑)「え? マジで? 全部?」みたいな。直感的に危ないなぁと思う半面、もし本気で海外で戦おうと思ったら、「この程度はできないとだめなのかもしれない」と思いましたね。
白川氏 振り返ってみて、3年かけてやるのと、むちゃ振りにのっかるのとどっちが正解だったと思いますか?
中野氏 難しい話ですね……。関係者の生存確率やプロジェクトの炎上を避ける観点からいうと絶対に、分散した方がいいのですよ。プロジェクトマネジメントの定石もそっちです。特に体制構築が完全に間に合ってない。そもそも「独りシステム担当」からのスタートですからね。パートナーさんの力を借りるにしても、私がボトルネックになって炎上する可能性が高い。
でも、システムは、いろいろなところに波及するのも事実です。例えば「人事のこのパートだけ先にやる」と言っても、そのシステムが他のシステムと裏でつながっていたりすると、結局、それをつなぐための暫定システムを作ったり、手連携をしたりといった作業が発生します。段階移行計画分のオーバーヘッドは確かにあって、お金と時間、そして人を多く投入する必要があります。それを考えると、「変えるならガッと一斉に」というのもなくはないとは思うのです。ただ、皆さんには手放しでおすすめはできないですね……。
白川氏 私たちコンサルも、基本的には「順番にやりましょうよ」とお客さんに提案することがほとんどです。でも、中にはクックパッドさんのように強引なお客さんもいるんですね。私たちがそのお客さんにほれていたりすると「やりますか!」ということになって、何回かそういうプロジェクトを手掛けましたが、意外と何とかなるんですよね。後にそれが「伝説のプロジェクト」になったりして。
中野氏 実は私も、考えなしにイエスと言ったわけではないんです。プロジェクトには、幾つかうまく進めるための条件があると思っています。大きなところで3つ。
まずは、「経営のバックアップがあるか」。システム投資は各所に影響が出ますし、人もお金も使う。単純にインパクトが大きく、現場だけで背負いきれるものではない。システム刷新というのはある意味の公共事業なんですよね。高速道路を作るような感じ。クックパッドの場合、予算は出たので外から人を借りてくるようなことができたのは大きかったですね。確かに私がボトルネックにはなっていたのですが、パートナーさんの支援もありなんとか切り抜けられました。ボヤは何度も出ましたが鎮火不能な炎上はなかったと思います。 ドキドキしましたが(笑)。
次は、「企業のカルチャーが変化に向いているか」ですね。新しいことをやろうとするとき、会社によっては抵抗勢力との戦いがかなり厄介なんです。システム一つ変えるだけでも、「何いってるんだ」と上下左右から弾が飛んでくるようなことは案外、普通ですよね。「関連する部署に説明行脚をして関係者と握って」みたいな根回しを念入りにしないと撃ち殺される。とはいえ、今回はとにかく一人で始めているので、企画から導入、さらに採用までと、やることがたくさんある。さらに期間も短い。正直、丁寧なコミュニケーションが難しいのは、あらかじめ想定できました。その点、クックパッドは変化慣れしているからか、割とむちゃなやり方に寛容なんですよね。これなら、「一気にシステムを変えることによる人的摩擦は少ないのではないか」という目算がありました。
最後は、「人材の質が高いこと」です。これも非常に大きいです。もともといる人材の質も高いと感じていました。業界的に平均年齢が比較的低く、ITリテラシーの平均が高いというのもありますが、クックパッドは企業としても人材の質は高いと思いました。
体制構築における最大の問題は、いわゆる「ひとり情シス」からスタートしたことです。採用も並列で進めたのですが、良い方を採用できるかどうかは予測できない。折しも転職市場は加熱していて採用の難易度は上がっている。これも、やれることをやって、後は祈るしかない(笑)。どんなに忙しくても、採用関係のタスクは最優先にしましたね。“何をおいても人ありき”というところは一切、妥協しなかったです。システムもプロセスも制度も文化も人が作り、利用して成果を出すための手段であり、人より重要な要素はないと思っています。
採用面接では、良いところはもちろん、問題や課題も赤裸々に伝えました。自分の苦い思い出から、悪いことこそちゃんと伝えるべきだと思っています。結果、運にも助けられて良いチームを作れたし、一緒にやることを選んでくれたメンバーには感謝しかない。もしここがうまくいってなかったら大変なことになっていたと思います。
この条件がそろっているなと感じたので、イエスと言ったんです。普通の会社でやれといわれても絶対やりません。断じてノーですよ。プロジェクト大失敗間違いなしですよ。プロジェクトの失敗は、「変化しないことに対する理由」を与えてしまう。「この前失敗したじゃないか」と。だから、プロジェクトはやる以上は成功させなければならないし、少なくとも失敗は避けないとならないと思います。
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