「NEC 365」にみるマイクロソフトの新しいパートナー協業形態:Weekly Memo(2/2 ページ)
NECとMicrosoftが「Microsoft 365」の利用を促進する新サービス「NEC 365」を共同開発し、販売を開始した。この動きに、Microsoftの新しいパートナー協業形態が見て取れる。
クラウドパートナーエコシステムはIT業界構造を変えるか
さて、NEC 365は、Microsoft 365のOEMではなく、NECとMicrosoftの共同開発ということだが、実は、さらにこの動きには、Microsoftのパートナーエコシステムのおける新しい協業形態へのアプローチが見て取れる。
会見に登壇した米Microsoftのガブリエラ・シュースター コーポレートバイスプレジデントOne Commercial Partner担当はNEC 365について、「当社はこれまで長い時間をかけてパートナーエコシステムを強化してきた。さらに2018年からは、パートナー各社と当社の協業において、共同での開発やマーケティング、お客さまへの提案活動を一層強化している。NEC 365はそうした取り組みを象徴するソリューションだ」と説明した。
この発言はつまり、Microsoftはこれまでパートナーに対して製品やサービスを提供し、パートナーはそれらに自らの付加価値を付けたソリューションとして顧客に提供してきたエコシステムのありようを、製品やサービスの提供だけでなく、例えば営業活動においてもMicrosoftがパートナー各社ともっと緊密に連携していくことを明示したといえる。
そうした関係を表しているように見て取れるのが、図3だ。この図はNECの松下氏が説明の中で示したものだが、NECとMicrosoftの間をMicrosoft 365とNEC 365が行き来している描写が興味深い。
さらに、シュースター氏はこうも述べた。
「従来、企業の業務システムを構築する際は、それを担ったゼネラルコントラクターがさまざまなテクノロジーやソリューションを複数のベンダーから調達して組み合わせる必要があった。しかし、これからは共通のクラウド基盤上で利用できるテクノロジーやソリューションを組み合わせられるパートナーエコシステムから、お客さまが求めるビジネスのための仕組みを素早く提供できるようになる。そうしたお客さまの要望に応えるためにも、パートナーエコシステムを今後も引き続き強化していきたい」
この発言も興味深い。IT業界ではシステム構築における「多重下請け構造」が長らく問題視されてきたが、それがクラウドをベースとしたパートナーエコシステムに取って代わるのか。大手システムインテグレーターが担ってきたゼネラルコントラクターは必要なくなるのか。いずれにしても、これまでのIT業界の構造を大きく変化させる話である。
とはいえ、ユーザーの視点で言えば、NEC 365に象徴される動きは大いに歓迎すべきことだ。加えて、NECも大手システムインテグレーターであることを考えると、NEC 365は新しいIT業界構造のありようを示唆しているのかもしれない。
これはOEMじゃなくて何なんだ、と思って説明を聞いていたら、けっこう、IT業界の核心的な話に深まった気がした会見だった。
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