AIは人の怒りを鎮めることができるか――信頼できる「対話エージェント」の作り方:サイバーエージェント「AI Lab」に聞く(後編)(3/3 ページ)
「人が信頼したくなる、思わず信頼してしまう対話エージェント」を生み出したい……そんなビジョンを掲げ、AIの研究を進める「AI Lab」。企業とさまざまな実証実験を進めているが、その実現にはいろいろな課題もあるという。
まず、研究という観点では、いわゆる“勝ちパターン”が見つけられていない点が課題だ。どんな事例でも応用が利くような、汎用的な方法が見つかっていないという。それを見つけるために、実証実験を繰り返している段階だと馬場さんは話す。
「『この技術を極めれば、人間はロボットを信頼する』というような“答え”が出てくれば、それを基にサービスを開発することもできるのですが、まだそれは見つかっていません。もちろん、それぞれの実験でいい結果は出ているのですが、ツールに制限があったり、1対1じゃないと無理だったりと条件がある。広くビジネスに展開できるような、根幹の技術を、今まさに探っているところです」(馬場さん)
スケールしにくいという状態は、そのままビジネス面における弱点になる。また、ロボットを使うときなどは特に、どれだけコストが必要になるか予測しにくいため、効果の不明瞭さと合わせて、ROIが把握できないというケースも少なくない。
どうすればこの状況を打開できるのか。研究の面はともかく、ビジネス的な部分については、「利用促進の施策として、対話エージェントなら広告などの既存ツールよりも、高い効果が出せることを証明する」ことがカギになると馬場さんは指摘する。東急ステイにおけるロボット接客の実証実験でも、「信頼関係が構築できたロボットならば、その言葉を人間は受け入れて行動が変容する」と分かれば、すなわち、それは広告価値になる。
ロボットが広告媒体となったときの価値は、情報に触れる確率の高さにある。通常のWeb広告はクリックして購入まで到達する確率が0.001%といった規模の数字だが、ロボットの場合、もっと高い確率で利用を促せる可能性がある。
「情報に触れたり、行動が変容したりする確率が高ければ、母数が少なくとも、広告効果としては価値があるものになります。今は“客寄せパンダ”的にロボットを使うことが多いので、『それに本当に効果があるのか』という部分に向き合う。それが僕らのやりたいことですね」(馬場さん)
「信頼したくなる対話エージェント」の実現に必要なステップ
実装面の難しさはあるものの、今後、人とロボット(AI)が共生していく流れは増えると予想される。AI Labがビジョンとして持つ「信頼したくなる対話エージェント」、そこにたどり着くためには、どんなブレークスルーが必要なのだろうか。「明確なイメージがあるわけではない」としながらも、馬場さんは、対話エージェントに伴う責任を口にする。
「僕たちもさまざまな方向で試行錯誤しているんですが、予感があるとすると『責任が増える』というイメージです。対話エージェントが負う責任が大きくなれば、いやでも信頼する必要が出てきます。例えばチャットbotが商品を勧めるだけでなく、商品を購入するところまで進められるシステムだったらどうでしょうか。そうなるとbotが担う役割が大きく変わります。
こうしたお金のやりとりもそうですし、商品を提示する際も、当たり障りのない表現ではなく、一歩踏み込んで、責任を持ったような状態で何かを伝えるという段階が次に来るかなと考えています。とはいえ、それは企業としてリスクを負うことにもなります。その上で一緒に実験を進められる企業を探しているところです」(馬場さん)
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