これをやったら「働き方改革」はうまくいかない サイボウズチームワーク総研、青野氏に聞く「成功に欠かせないポイント」:INSIGHTS SHARE(2/3 ページ)
個人が「働き方を選ぶ」とは、どういうことなのか。現在「100人100通り」の働き方を掲げているサイボウズの青野誠氏と、ライフスタイルやイベントに合わせて働き方を決められる「orangeワークスタイル制度」を導入したブイキューブの今村亮氏に、そのヒントを聞いた。
重要なのは「自然発生したニーズ」に合わせて制度を変えられるか
青野: ブイキューブさんも、全社的にテレワークを導入されていますが、どのような経緯だったんでしょうか。
今村: 弊社も、もともと学生発ITベンチャーとして、各自が比較的自由な場所や時間で仕事をするというところから始まっている会社です。取り立てて苦心してテレワークに取り組んだこともなく、人が増えていく中で、きちんと決まりを作ろうという動きから、現在に至っています。実態に合わせて自然発生的にテレワークを制度化したという流れですね。そこからもう一歩踏み込んで具現化したのが、2017年に発表した「orangeワークスタイル制度」です。
青野: 新制度として発展させた狙いは何だったのでしょうか。
今村: 以前のテレワーク制度は、週1回のテレワークを認めるというものだったり、社員から上がった要望を特例で認めたりといったスタイルのものでした。ところが、いちいち特例を作っているとやりづらくなるので、ライフスタイルやイベントに合わせて自分で働き方を決められる「orangeワークスタイル制度」に発展させたんです。もともと、「制限は取っ払えるなら取っ払ってしまって、現場にマネジメントを落とした方がいいんじゃないの」という考え方だったので。結局、「自分の働き方は自分で選びましょうよ」というところはサイボウズさんと同じです。
「サイボウズだからできる」と言う企業と本気で変わろうとしている企業の違い
今村: サイボウズさん自身が多様な働き方を進める中で、2017年11月に「サイボウズ チームワーク総研(以下、チームワーク総研)」を立ち上げたのは、どういった背景があったのでしょうか。
青野: サイボウズは「チームワークあふれる社会を作る」という企業理念の下、情報共有ツールを提供してきました。しかし、グループウェアを入れるだけでチームワークあふれる会社が実現できるかというと、そうではありません。やっぱり会社の風土に入り込まないと、自分たちが理想に掲げるようなチームをたくさん作るのは無理だ――ということに気付き始めたんです。自分たちがそれに向けて実践してきた経験もあるので、それを広げていくといいんじゃないかと。そこでチームワーク総研を設立し、パッケージ化された研修として提供する事業を立ち上げました。
今村: ブイキューブでも、Web会議システムを提供するお客さまに対して、Web会議システムを活用したテレワークの導入方法をコンサルティングするような機会があります。サイボウズさんのケースと同じように、働き方改革を推進したいものの、方法が分からずに困っているという悩みはよく聞きます。
青野: 一口に働き方改革を推進しようとしているといっても、さまざまな段階があって、大企業は「まずはお話を聞かせてください」という情報収集段階のところが多いですし、中堅どころでは実際に研修に入っているところも多いです。肌感覚ではありますが、熱意あるプロジェクトチームが話を聞きにくるけれども、経営層の理解はいまひとつ……という構造の企業が多いように感じます。
今村: せっかくノウハウをお伝えしても、「正直、サイボウズさんだからできるんですよ」という話になってしまう企業もあるんじゃないですか。
青野: はい、そういうコメントを頂くケースも実はかなり多いです。残念ながら、”研修に参加した”という実績づくりのためにいらっしゃっているような企業もあるように思います。
今村: そういう企業と、本気で会社の風土から変えようとする企業の違いはどんなところにあると思いますか。
青野: やはりある程度、経営層の本気度が影響すると思います。例えば社長の青野が国内の某大手IT企業で講演をさせていただいた時は、会長も社長も講演を聞きにいらっしゃっていて、終了後に経営陣が自ら「私はこう変わります」という宣言をしたらしいんです。そのような企業は、これから変わっていくでしょうね。
今村: なるほど。経営層の本気度と現場の取り組みの両輪が必要ということですね。
現場の取り組みについて、もう少し細かい話を掘り下げると、4つの研修コースのうち「リモートワークのはじめ方」コースでは、想定課題として「情報漏えいリスク」や「部門による不公平感」を挙げられています。この辺がボトルネックになっている企業が多いのでしょうか。
青野: はい。よくあるのは、「会議が多いからリモートワークできない」「営業だからリモートワークできない」といった不公平感です。実はそれすらもツールで乗り越えられることは結構多いんですが……。つまり、ツールを使いこなす仕組みさえ工夫すれば、できないことはないはずなんです。ここでもやはり肝になるのは、経営層やマネジメント層の意識だと思います。
今村: なるほど。もう一つの想定課題である「情報漏えいリスク」についてはいかがでしょうか。
青野: これは一定の規定を作る必要があると考えていて、サイボウズでも、リモートワーク規定をセキュリティ部門が作っています。例えば、PCの画面にのぞき見防止フィルムを貼り付けるとか、公衆Wi-Fiを使わないとか、そこは会社として徹底しています。通勤中の紛失を防ぐため、在宅勤務用のPCを配布するなどの取り組みは、そもそも業務がクラウド化されているからできることなんですけどね。
今村: いずれの課題も、ツールをきちんと導入することによってある程度乗り越えられると言えそうですよね。弊社では、働き方改革に必要な要素として「文化」「制度」「ツール」の3つを挙げているのですが、この3つのうちどこから入るとやりやすい、といったようなポイントはありますか。
青野: 「文化」を根付かせるのは本当に難しいので、これが最後でしょうね。覚悟を持って制度やツールを変え、そこから10年経ってようやく文化も変わる……といった感じかなと。サイボウズも制度をボトムアップするということを続けて、ようやく今のような文化ができてきたんです。
関連記事
- 連載:「INSIGHTS SHARE」記事一覧
- 「テレワーク保険」は、どこまで働き方改革のリスクをカバーしてくれるのか
東京海上日動火災保険と協業し、「テレワーク保険」の共同展開に乗り出した日本マイクロソフト。テレワークのリスクをどこまでカバーしてくれるのだろうか。 - 外回りの営業はうれしい。では、内勤者にどんなメリットが? テレワーク導入のカベ
ITmedia エンタープライズが開催したセミナー「働き方改革のリアル」。セキュリティトラック後半のセッションでは、「情シス」も「現場」も恩恵を受けられるような、働き方改革の仕組みづくりについて、さまざまな提案が行われた。 - いいことばかりではない? MSのテレワーク体験プログラムから見えてきた課題と解決策
日本マイクロソフトが推進する「ウーマン テレワーク 体験プログラム」、その成果はいかに。子育てとの両立を目指すプログラム参加や、テレワーク人材の確保に期待を寄せるプログラムパートナー企業の生の声を紹介する。また、見えてきた課題とは? - IT活用で女性の働き方はどう変わるのか 「テレワーク体験」から分かったこと
日本マイクロソフトが、3月8日の「International Women's Day(国際女性デー)」にあわせて社内イベントを開催。女性が働きやすい環境の実現に取り組む姿勢を、社外にも訴求した。また同日、働き方改革の推進の一環として、女性支援のための新たなプログラムを発表。その詳細とは。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.