AWSの切り崩しは許さない――Windows Server 2008サポート終了に向けたマイクロソフトの思惑:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業システムのサーバOSとして広く使われている「Windows Server 2008」のサポート終了に伴い、日本マイクロソフトが新しい利用環境への移行状況について説明した。そこには競合勢力に顧客を奪われないように物事を進める同社の思惑が見て取れた。
AWSによる切り崩しを許さないのが至上命令
図2は、新しい利用環境へ移行した顧客の移行先を示したものである。左側の円グラフでは、2018年3月調査で7.3%だったクラウドが、2019年6月調査では26.9%に増加している。しかし、これは逆に言えば、まだ70%以上がオンプレミス環境のままということだ。
また、移行先のクラウドサービスを示した図2の右の表では「Azureの指名が増えている」(浅野氏)と言うが、見方を変えれば、2018年3月調査ではAmazon Web Service(AWS)に切り崩されていた市場を取り戻した形で、まだまだ2位のAWSに対して気が抜けない状態が続いているといえそうだ。
では、なぜクラウドへの移行にもっと勢いがつかないのか。浅野氏は楽天インサイトによる2019年2月度調査から、クラウド移行の障壁となっている点として「機密情報の取り扱い上、導入できない」「クラウド利用のセキュリティリスクが判断できない」というセキュリティ問題を多くの企業が挙げていると指摘。従って、今後の移行支援策としてセキュリティ対策にも注力することを強調した。
ここで、もう1つWindows Server 2008のサポート終了が関連する調査結果を紹介しておきたい。IDC Japanが先頃発表した国内サーバOS市場の動向から、市場構成比で50%以上を占めるWindows市場は、2018年で前年比成長率が9.5%増となった。その要因は、「Windows Server 2008のサポート終了を控えて『Windows Server 2016』への移行案件が増加したから」だという。
IDC Japanでは、この移行需要は2019年も続くとみており、2019年の前年比成長率は8.8%増を見込んでいる。2019年4月にWindows Server 2008を使用している企業を対象に実施した調査によると、移行を実行している段階の企業が56.6%、既に移行を完了した企業が22.2%となっており、4分の3以上の企業がWindows Server 2016を中心とした新たなOSへ移行を進めている状況だ。(図3)
このIDC Japanのレポートで興味深いのは、市場は伸長しているものの、その要因について「Windows Server 2008のサポート終了を控えてWindows Server 2016への移行案件が増加したから」としていることだ。つまり、オンプレミス環境でのOSのグレードアップの話なのだ。この動きは、上記の日本マイクロソフトによる図2の説明と照らし合わせても違和感はないが、同社にとってはAzureへの移行を加速させたいところだろう。
ただ、ここでクラウドへの移行をやみくもに急いで「Azure対AWS」を浮き立たせるのは、同社にとって得策ではない。それならば、取りあえずはAzureへのリフト&シフト、それが難しければオンプレミスのWindows Server新環境への移行を促すことによって、とにかくAWSによる切り崩しを許さないようにするのが最重要課題である。日本マイクロソフトがこのところ慎重に推し進めているハイブリッドクラウド戦略には、こうした思惑が見て取れる。
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