CXを起点にDX支援へ――進化するSalesforceの攻めどころ:Weekly Memo(1/2 ページ)
CRMのクラウドサービスからスタートしたセールスフォース・ドットコムが、DX支援ベンダーへと進化している。同社の日本法人が先頃開いたイベントから、その進化の姿を浮き彫りにしてみたい。
「Customer 360」に込められたしたたかな戦略
「Salesforceが米国サンフランシスコのアパートの一室で産声を上げてから今年、2019年でちょうど20年。CRM(顧客情報管理)をベースにしたクラウドサービスを始め、企業と顧客のつながりに注力し、今では15万社を超えるお客さまにご利用いただき、ここまで成長することができた。厚くお礼申し上げたい」
米Salesforce.comの日本法人セールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼社長の小出伸一氏は、同社が先頃都内ホテルで開いた自社イベント「Salesforce World Tour Tokyo」の基調講演の冒頭で、こう感謝の意を述べた。
筆者も1999年に創業した「初めてのクラウドサービス専業ベンダー」として注目してきたが、「20周年」は一つの大きな節目を感じる。それもあるのか、今回のイベントでは同社のビジネスに大きな変化を感じた。それは、CRMのクラウドサービスからスタートしたSalesforce.comが、デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するベンダーへと進化していることだ。
どういうことか。2つのポイントを挙げたい。
まず1つ目の進化は、個々の顧客企業への「深化」である。SalesforceはCRMの重要な要素であるカスタマーエクスペリエンス(CX:感動的な顧客体験)の強化に向けて、2018年から「Salesforce Customer 360(以下、Customer 360)」と呼ぶサービスの展開に注力している。その中身は図1に示した通りで、いわばCXを起点にDXを支援していくことを狙いとしている。
小出氏はCustomer 360について、「企業と顧客のつながりにおいては、企業がいかに顧客の期待値を超えるCXを提供できるかが、今後の最大の差別化ポイントになってくる。Customer 360はそうしたニーズに応え、顧客を360度の視点で理解して寄り添うことができるサービスだ」と説明した。
また、小出氏に続いて基調講演に登壇した米Salesforce.com共同創業者兼CTO(最高技術責任者)のパーカー・ハリス氏は、「Customer 360には(図1の右側に記されているように)最新技術をどんどん取り入れており、それらをひとえに顧客サービス向上のために活用している。それこそが当社の使命だと考えている」と語った。
では、この話が個々の顧客企業への深化とどう関係があるのか。それはCustomer 360が個々の顧客企業のニーズに合わせてカスタマイズされるからだ。基調講演ではCustomer 360の適用例として、三越伊勢丹ホールディングスの「Isetan Mitsukoshi Group 360」(図2)が紹介された。図1と見比べれば、カスタマイズされた部分がお分かりいただけるだろう。こうしてDXへ向けて柔軟な仕組みを構築できるのが、Customer 360に込められたSalesforceのしたたかな戦略である。
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