CXを起点にDX支援へ――進化するSalesforceの攻めどころ:Weekly Memo(2/2 ページ)
CRMのクラウドサービスからスタートしたセールスフォース・ドットコムが、DX支援ベンダーへと進化している。同社の日本法人が先頃開いたイベントから、その進化の姿を浮き彫りにしてみたい。
業界別展開でメガクラウドベンダーと真っ向勝負
もう1つの進化は、業界別ソリューション展開の拡充である。1つ目はCustomer 360によってCXを起点に個々の顧客企業のDXを支援していこうというものだった。こちらはCustomer 360も含めたSalesforceのさまざまなサービスを必要に応じて組み合わせながら、業界別ソリューションとして1つ目と同様にCXを起点にDXを支援していこうというアクションである。
図3に示したのは、Salesforceが現在提供している全サービスの一覧である。今回のイベント向けの案内冊子で展示場の内容を紹介したものだが、筆者が見た資料の中で、全サービスが最もコンパクトに収まっていたので紹介しておく。
この図3の中で特に注目していただきたいのが、下段にある「INDUSTRY ZONE」である。左から重複を除いてタイトルだけ挙げておくと、「官公庁・地方自治体」「Retail(小売り)」「Consumer Product Goods(消費財)」「Manufacturing Cloud」「製造業向けソリューション」「金融 銀行/証券/カード(個人および法人)」「金融(保険)」である。
ハリス氏によると、「業界別ソリューション展開はお客さまの要望を基に取りそろえ始めた」とのこと。上記の中でもConsumer Product Goodsにおける「Consumer Goods Cloud」とManufacturing Cloudは、日本ではこのイベントで初めて披露されたサービスで、ハリス氏が図4を示しながら、その内容を説明した。日本で初登場の業界別ソリューションをCTOの同氏が紹介していたところに、この分野に向けた同社の力の入れようがうかがえる。
さらに、Salesforceの業界別ソリューション展開の話を聞いていて、筆者は日本マイクロソフトのクラウドサービスにおける業種別ソリューション展開の取り組みを思い出した。この件については、2019年9月17日掲載の本連載記事「業種別ソリューション展開に注力する日本マイクロソフトのしたたかな戦略」をご覧いただくとして、両社の動きからIaaS/PaaS/SaaSに限らず、今後のクラウドサービスは業種別(業界別)ソリューション展開が、普及競争における激戦区となりそうだ。
Salesforceの年間売上高は、2019会計年度(2019年1月期)で前年度比26%増の132億8000万ドル(110円換算で約1兆4600億円)。2020会計年度には169億ドルを見込み、2023会計年度には280億ドルと110円換算で3兆円突破を目指す構えだ.
そうなると、進化を続けるSalesforceは、巨大な競合他社と体力で勝負できる規模の企業になる。これまではクラウドサービスというと、IaaSベースのAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Googleといった、メガクラウドベンダーと呼ばれる3社が目立っていたが、今後は同じ業種別ソリューションの市場でSalesforceがどこまで存在感を示せるか、注目されそうだ。
関連記事
- 「Weekly Memo」記事一覧
- 企業の差別化戦略を支える「カスタマーエクスペリエンス(CX)」市場は堅調に拡大 2022年に6410億ドル規模に――IDC予測
IDC Japanによると、企業にとって重要な差別化要因となる「カスタマーエクスペリエンス(CX)」へのIT投資は、世界9カ国を対象にした調査結果から、2022年まで年成長率8.2%で拡大し、2022年には6410億ドルに達する見通しであることが分かった。 - 業種別ソリューション展開に注力する日本マイクロソフトのしたたかな思惑
日本マイクロソフトが業種別ソリューション展開に注力している。クラウドによるプラットフォーム事業を主体としてきた同社が、これまで手掛けてこなかった領域に足を踏み出したのはなぜか。そこには同社のしたたかな思惑があるようだ。 - 業務部門が自ら“AIをカスタマイズ”可能に Salesforceは“AIの民主化”を加速させるのか
セールスフォース・ドットコムがAIプラットフォーム「Salesforce Einstein」において、ユーザー側でもカスタム利用を可能にする新施策を打ち出した。この動き、“AIの民主化”にも波紋を投げかけそうだ。 - SalesforceとAWSが展開する“響く”カスタマーファーストとは?
「カスタマーファースト」はビジネスを行っている企業ならばどこも重視しているが、クラウドサービスベンダーで筆者が特にその姿勢を感じるのがSalesforce.comとAmazon Web Servicesだ。なぜ両社の姿勢は“響く”のだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.