大阪リージョン発表のAWSが日本企業のクラウド利用に見る「DXに向けた変化」とは:Weekly Memo(2/2 ページ)
AWSジャパンがクラウドサービスにおけるユーザー企業への支援を一段と強化している。その背景に、ITとDXへ向けたユーザー企業の取り組みの変化が見て取れる。
日本企業も自ら手掛け始めたシステムの開発や構築
「AWSはジャシーCEOが示したリーダーシップ4か条を基に、経営者層に対してもしっかりと支援していきたい」――。長崎氏はそう話し、経営者層に対して次の3つのコミットメントを持って取り組むように促した。
第1は「ビジネスや仕事の仕方をはじめ、組織や人事の仕組み、企業文化、風土そのものの変革が不可欠なこと」。第2は「必要な変革に対する社内での抵抗が大きい場合にはトップがリーダーシップを発揮し、意思決定すること」。第3は「データやデジタル技術を活用した新しい挑戦を促しつつ、挑戦を継続できる環境を整えること」である。
そして、具体的な支援策として、経営者およびリーダーに向けては図3、開発者や技術者に向けては図4に示したプログラムなどを用意していると説明した。
さて、ここからは筆者の見方を述べたい。最も興味深かった点は、図1におけるユーザー企業のAWS認定取得数が急増していることである。この動きは何を意味しているのか。長崎氏は先述したように「クラウドの利点がユーザー企業にも受け入れられるようになってきた」との見方を示しているが、筆者は「いよいよ日本企業もシステムの開発や構築を直接手掛け始めたのではないか」と感じた。
これはよく言われる日米の企業の比較だ。システムの開発や構築について、自ら手掛けるケースとSIerに委託する割合は、米国企業で7対3なのに対し、日本企業では逆に3対7であることから、日本企業のSIerへの依存度の高さがかねて指摘されてきた。この割合が、日本企業でクラウド利用が広がるにつれて変化しているのではないか。具体的には、米国企業のように自ら手掛けるケースが増えてきているのではないか、というのが筆者の見立てである。
では、この現象がもたらす影響とは何か。それがまさしくデジタルトランスフォーメーション(DX)である。DXについては、どの企業も自らの手で推進すべきだといわれている。「企業はこれから全てが『デジタル企業になる』あるいは『ソフトウェア企業になる』」という表現があるが、それはDXを示したものだ。つまり、クラウドがDXの重要なツールであることを踏まえると、図1は日本企業でもDXに取り組むところが増えてきたことを表していると見て取れる。
そして、今回の長崎氏の発言からすると、AWSはそうした動きが起こりつつあることを捉えた上で、経営者層へのメッセージを強化してきていると推察される。
会見の質疑応答で「クラウド利用における日米企業のギャップ」について問われた長崎氏は、次のように答えた。
「日本企業は米国企業と比べてまだ2、3年遅れていると思う。その最大の理由は、経営の意思決定のスピードにあると見ている。ただし、日本企業は意思決定すればダイナミックに動き出す。今、そうした企業がどんどん出てきている」
ユーザー企業への支援を強化し、経営者層にもメッセージを発信し続けることが、ひいてはあらゆる企業のDX支援につながるというのがAWSの思惑だろう。そのバロメーターとなる「3対7」の比率の変化に注目していきたい。
関連記事
- 「Weekly Memo」記事一覧
- AWSが2021年初頭に大阪リージョンを開設、ソニー銀行は全業務をAWSに移行
Amazon Web Servicesは、2021年初頭に大阪にAWSリージョンを開設する。3つのアベイラビリティゾーンで構成する。この発表を受けてソニー銀行は、AWSの利用範囲を、勘定系を含む全業務に拡大する。 - 2019年、AWS以外が「マルチクラウド」をあおった理由――相次いだ買収劇と勢力図の変化を解説しよう
競合同士による協業やクラウドベンダーによる他社の買収劇が相次いだ2019年。読者がよく耳にしたのが「マルチクラウド」「コンテナ」といった用語だったのではないか。その裏側には、これまでの競争の形を大きく変えた各ベンダーの思惑がある。 - 2019年を総括する4つのキーワード「DX」「ハイブリッドクラウド」「シェアリングサービス」「データ保護」を解説しよう
今回は年内最後のWeekly Memoなので、2019年のエンタープライズ/コマーシャルIT市場において印象に残ったトレンドとして4つのキーワードを挙げ、その理由やポイントを述べたい。 - 自社をAWSのデータセンターとして使える「AWS Outposts」正式リリース 日本国内でも利用可能
AWSは、2019年7月にアナウンスしていた「AWS Outpost」を正式にリリースした。クラウドインフラと同等のシステムをオンプレミスに持ち込み、パブリッククラウドと連携したハイブリッドクラウドを実現できるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.