「全国中小企業クラウド実践大賞 全国大会」にみる3つのクラウド活用ポイント:Weekly Memo(2/2 ページ)
クラウドサービスを有効活用する中小企業を表彰する「全国中小企業クラウド実践大賞 全国大会」が開催された。そこから中小企業におけるクラウドサービス活用のポイントを筆者なりに挙げた。
10社とも用途に応じて複数のSaaSを有効活用
さて、ここからは今回のイベントを取材して筆者が感じたことを述べていく。まずは10社のプレゼンテーションから幾つか、どのようなクラウドサービスをどのように使っているか、について表した図を挙げてみよう。
図1は、総務大臣賞を受賞したatsumelの活用状況だ。全社の全情報を「Salesforce」に集約していることを表している。ちなみに、表1では従業員数が7人となっているが、これはSalesforceを活用した不動産コンサルティングを展開する同社のみの人数で、不動産業を営むグループ企業全体では132人とのことだ。つまり、グループ企業内で活用を進めたSalesforceで新たなビジネスを広げている格好だ。同社ではさらに、Web会議や人事評価制度、勤怠管理、見積もり、請求書発行などにも専用のクラウドサービスを活用している。
図2は、審査員特別賞を受賞した松月産業の活用状況だ。「グリーンチェーン」と名付けたビジネスホテルチェーンを展開する同社のクラウドサービス活用は「Office 365」が情報共有の要である。同社は「情報共有と見える化の徹底でスタッフ一人一人の数字に対する意識が向上し、売上高がアップした」という。
図3は、同じく審査員特別賞を受賞した小松電業所の活用状況だ。同社では「IoT(モノのインターネット)の導入で現場の生産性改善を図る」「グループウェアの導入で社員のコミュニケーションを円滑にする」「ワークフロの導入で業務プロセスの効率化を図る」ことを狙いに、クラウドサービスを「1年ほどで一気に導入した」という。「一気に導入したことでサービス間の連携も同時に進め、相乗効果を生んだ」と説明していた。
図4は、全国中小企業団体中央会会長賞を受賞したコスモテックの活用状況だ。左側に記された課題を解決するために、さまざまなクラウドサービスを導入したという。ちなみに、一番下の「CPMS」と名付けた自社開発の予兆保全SaaS(Software as a Service)は2020年内に外販する予定だ。
これらを含む10社の事例内容を聞いて、中小企業におけるクラウドサービス活用のポイントを筆者なりに3つ挙げる。
1つ目はSaaSの有効活用だ。上記の図示をはじめとして10社全てが用途に応じて複数のSaaSを使っているのが印象的だった。大手企業ではクラウドというとIaaS(Infrastructure as a service)を巡る論議が目立ちがちだが、本来、クラウドサービスのメリットを最も享受できるのはSaaSだ。その意味では、中小企業は用途に合わせてSaaSをどんどん使ったほうがROI(投資対効果)の観点からも有利だろう。この流れは遠からず大手企業へも波及するのではないだろうか。
2つ目はクラウドサービスの導入を機に業務改革や働き方改革を実行することだ。筆者の印象では、クラウドサービスの導入もさることながら、10社全てが業務改革や働き方改革における一大プロジェクトの話だった。この点において小規模な分、機動的に物事を進めやすい中小企業は関係者が多く調整に時間がかかる大手企業より全社一丸、流行の言葉だと「ONE TEAM」として取り組みやすい。
3つ目は、1つ目と2つ目も合わせて「自らの業界を変えてやろう」というくらいの気概を持つことだ。例えば、今回の10社のうち5社がSalesforceを使用しており、その多くが自社のSalesforce活用ノウハウを外部にも広めて、自らの業界をもっと良くしていきたいとの意欲を語っていた。このエネルギーはそれぞれの業界に必ずインパクトをもたらすだろう。
以上、およそ3時間半のイベントの間、中小企業のプレゼンター10社の意気込みを感じた貴重な取材だった。
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