サステナビリティは「ビジネス」になり得るのか――富士通の活動から探る:Weekly Memo(2/2 ページ)
「サステナビリティ」が社会課題への取り組みとして注目されている。だが、企業にとってはビジネスにできなければ続けられない。果たして、サステナビリティはビジネスになり得るのか。富士通の活動から探りたい。
企業に求められる「成長と持続可能性の両立」
時田氏はSXを進める企業の具体例として、大手化学メーカーの帝人によるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けた取り組みと、スウェーデンの大手測量機器メーカーであるHexagon Safety, Infrastructure & Geospatial division(以下、ヘキサゴン)によるデータを活用した都市づくりについて次のように紹介した。
帝人については「帝人と富士通は、さまざまな事業を通じて社会課題を解決するという互いの取り組みに深く共感し、それぞれの強みである素材とデジタル技術の化学反応を起こすことで価値の提供を目指す共同プロジェクトを開始した。帝人が持つ素材の温室効果ガス排出量の算定やリサイクルに関する知見と、当社のブロックチェーン技術を用いてプラットフォームを構築する。そして、メーカーやリサイクルなど、関係する企業のバリューチェーンにおける環境負荷に関するデータを取集し、活用できるようにする。これによって、リサイクル素材の環境価値の信頼性を高めていく」とのことだ(図2)。
ヘキサゴンについては「地図や都市のデータに基づくシミュレーションサービスをグローバルに展開しているヘキサゴンのIoT(モノのインターネット)プラットフォームによって、多様なデータを基に都市を三次元で可視化するツールと富士通のデジタルツイン技術を組み合わせ、交通や物流、都市インフラや防災など、スマートシティーに関するモデルを構築する。それを基に都市情報に関するリアルタイムダッシュボードなど、課題解決に必要なソリューションを企業や公共機関に提供する。リアルなデータを活用した自然災害の高度なシミュレーションによる防災機能の強じん化や、配送ルートの最適化による消費エネルギー削減などの早期実現を目指す」と説明した(図3)。
時田氏は講演をこう締めくくった。
「次世代を担う人たちは生まれた時から社会課題に直面し、それを『自分事』として捉えている。次世代が力を発揮する場は、社会課題の解決に取り組む企業にこそある。全ての企業が社会課題を解決する力を持っており、それらの企業が共感を持って力を合わせ、ともに取り組むことが求められている。その姿勢が企業の持続的な成長につながるものと確信している」
富士通のメッセージはまさしく「デジタル技術を活用して、企業もサステナビリティの取り組みをビジネスにして社会課題を解決していこう」というものだ。筆者は「その姿勢が、企業の持続的な成長につながる」という言葉が時田氏のメッセージの核心だと受け止めた。
ただ、重ねて言うが、サステナビリティは社会課題の解決に向けた取り組みではあるものの、ビジネスとして成り立つ保証はない。ビジネスにできなければ、企業の持続的な成長は見込めない。岸田首相の冒頭の言葉にあるように、成長と持続可能性をどう両立させていくか。企業にとってはこれからが正念場だ。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「Weekly Memo」記事一覧
なぜDXとサステナビリティを「分けて考えてはならない」のか――SAP、Oracle、富士通の見解から探る
企業の重要な経営課題として挙げられるサステナビリティとDXは別個のものと考えられがちだが、望ましい関係とはどのような形か。SAPやOracle、富士通の見解から探る。
ネクストミーツ、「SAP S/4HANA Cloud」で経営とサステナビリティの基盤を構築
代替肉(大豆ミート)製品を開発、販売するネクストミーツは、国内外での事業成長を支えるデジタル基盤として「SAP S/4HANA Cloud」を導入。多言語・多通貨に対応し、各国の会計基準に準拠した、経営とサステナビリティの基盤を短期間で構築した。
センシンロボティクスとSAP、大規模プラントの設備保全を効率化する統合プラットフォームを提供
センシンロボティクスとSAPは国内外で石油やガス、電力などの大規模プラントを保有する企業向けに設備保全を効率化する業務自動化統合プラットフォーム「SENSYN CORE」の提供を開始した。省人化や自動化に加え、サステナビリティや環境衛生面、安全面の便益も期待できるという。
持続可能性の優先順位が「爆上がり」 ITリーダーはその技術的問題にどう対処すべき?
持続可能性の企業における優先度が急上昇する中、ITリーダーにとって持続可能性は技術の問題でもある。BoeingやIBMのITリーダーがCO2排出量を削減するために支持する技術とは。

