低迷続く半導体 それでも「最先端技術」に投資するTSMCに“逆風”:Supply Chain Dive
慢性的な在庫枯渇から一転、半導体の需要低迷が続いている。各社が設備投資削減に奔走する中、TSMCは未来を見据えて最先端技術への投資継続に踏み切った。しかし、同社の“頼みの綱”は今、逆風にさらされている。TSMCは何を読み間違えたのか。
半導体受託製造企業のTaiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC:台湾積体電路製造)は、設備投資額を少なくとも10%引き締める予定だ。
2022年10月13日、Appleの主要サプライヤーであるTSMCのウェンデル・ホァンCFO(最高財務責任者)は「2022年の設備投資額を360億ドル程度と見込んでいる」と決算説明会で述べた(注1)。3カ月前は設備投資の下限を400億ドルから440億ドルとしていた。
TSMCの“頼みの綱”に逆風 その要因は?
TSMCが設備投資額を削減する背景にあるのは、家電製品の需要減だけではない。
同社が2022年後半に生産開始を予定している(注2)、3ナノメートル技術「N3」を使った製造装置を構成する重要部品の納入が遅れていることも一つの要因だ。
2021年、半導体生産能力の増強に奔走したメーカー各社は、スマートフォンやPC、その他の家電製品の需要減退を受けて方針を転換した。
TSMCは前年同期比47.9%の増収を記録したものの、「顧客が注文を減らすと予想されるため、設備投資は保守的なアプローチをとる」と同社のC.C.ウェイCEO(最高経営責任者)は決算説明会で述べた。
「需要面では消費者向け最終市場セグメントで軟調な状況が続いている。データセンターと自動車向けセグメントの需要は、今のところ堅調に推移している」(ウェイ氏)
消費者市場の需要減退を補うために、TSMCはより先端的な技術に力を注いでいる。同社は3600万ドルの設備投資予算の70〜80%を先端プロセス技術に充てている。
ウェイ氏は「当社の事業は、半導体業界全体からみて変動が少なく、回復力が高いと予想している。当社の技術面でのリーダーシップと差別化は、過去数年間と比較してはるかに強力だ」と自負をのぞかせる。
しかし、広範な部品不足によって、TSMCは先端技術に対する高い需要を生かすことが困難になっている。N3の導入が実現すれば、TSMCの最先端半導体プロセスノードとなる予定だ(注2)。同社はN3の生産に必要なフォトリソグラフィー装置や、その他の供給品の納期遅れに悩まされている。
TSMCの競合であるSamsungは2022年6月に3ナノメートル技術を使ったプロセス(注3)で初めて半導体チップを製造した。同社は、この技術がより高い性能と高いエネルギー効率を実現することをアピールした。
TSMCは、部品サプライヤーと協力して納期の課題に対処し、2023年以降の需要に対応するためにN3の生産能力を増強している。
「部品不足によって、N3への需要量は当社の供給能力を部分的に上回っている。2023年にはN3がフルに活用されると予想している」(ウェイ氏)
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