ガートナーが説く 「デジタルビジネス」を成功させる3つのポイント:Weekly Memo(2/2 ページ)
デジタルを活用したビジネス(デジタルビジネス)にどう取り組めばよいのか。DXを進める企業で頭を悩ませているところは多い。ガートナーが説くデジタルビジネスへの向き合い方から、「成功のポイント」を3つ挙げる。
IT部門とビジネス部門の連携を強化せよ
デジタルビジネスそのものを推進するためにはどうすればよいか。
鈴木氏は「有効なプロジェクトの数を増やすことが肝要だ」と述べた。
ガートナーはデジタルビジネスを進めている企業を対象に調査を実施した(図2)。現在進行中のプロジェクトの状況を尋ねる質問に対して、「2〜3つのプロジェクトに取り組んでいる」と答えた企業は合計で過半数に上った。5つ以上を並行して進める企業も1割強あった。
この結果に、鈴木氏は「失敗の可能性を織り込んだ取り組みを進めるという考え方が企業の間で浸透しつつある。投資の観点から見ると、1つに集中するよりも分散してビジネスチャンスを広く捉えようという企業の姿勢がうかがえる」との見方を示した。
上記の話から、デジタルビジネス成功の2つ目のポイントとして、「複数のプロジェクトを同時並行で進めよ」という点を挙げたい。
さらに、デジタルビジネスそのものを推進するために企業が取り組むべき点として、鈴木氏は「フュージョンチームの有効性を高め、広げる」ことを挙げた。同氏が言う「フュージョンチーム」とは、IT部門とビジネス部門による密な協業チームのことだ。
「デジタルビジネスは、そもそもデジタル技術とビジネスを掛け合わせた言葉だ。そのため、デジタル技術の活用を担ってきたIT部門だけでは対応できないことが明確になってきた。『デジタルビジネス』という言葉の通り、ビジネスを熟知した人も一緒になって進めていかなければ立ちいかないことが浮き彫りになってきた。従って、デジタルビジネスを推進していくためには、フュージョンチームとしてIT部門とビジネス部門の協業を深化させていくことが望ましい」
図2と同じ調査で日本企業におけるIT部門とビジネス部門の協業状況を明らかにしたのが図3だ。鈴木氏は「これまで両部門の信頼関係には問題があったかもしれないが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以降、密に協業できるようになっていることが分かった。この流れをさらに推進していきたいところだ」との見方を示した。
こうした動きを捉えて、ガートナーは「2026年までに、半数を超える日本の大企業のIT部門は、ビジネス部門と良好な連携を実現する」と予見している。
上記の話から、デジタルビジネス成功の3つ目のポイントとして、「IT部門とビジネス部門の連携を強化せよ」を挙げたい。
冒頭で、ガートナーがデジタルビジネスという言葉を2013年秋の年次イベントで使い始めたことを紹介したが、当時取材した筆者はガートナーが「IT」ではなく「デジタル」という言葉を使ったことに強い違和感を抱いた。コンピュータ分野を長く取材してきた立場からすると、デジタルはITの最も基本的な言葉で同じ意味合いなので、混乱を招くだけだと感じたからだ。
その後、筆者の印象ではしばらく混沌(こんとん)とした時期が続いた。ここ数年でデジタル化が「DX」という言葉によって、経営改革でありビジネスイノベーションであると捉えられるようになった。そして今、デジタルおよびDXが世の中に新しい風を吹かせているのは間違いない。
ちなみに、本連載でデジタルおよびデジタルビジネスという言葉をタイトルにも挙げて使用したのは、2014年11月4日掲載記事「ガートナーが説く『デジタルビジネス』の勘どころ」が初めてだ。2013年秋から1年後の同イベントを取材した記事である。筆者としては2013年秋からの1年間、デジタルという言葉の使用方法に疑問を抱いていたが、この頃ようやくガートナーの意図を理解し、上記の記事を書いた。今回読み返して驚いたのは、今のDXの動きを明確に予見していることだ。ガートナーの面目躍如といったところだろう。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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