「ラクをするのは後ろめたい」? 業務自動化を阻む日本の仕事観とは:変わりつつある業務自動化(2/2 ページ)
業務自動化はこれまでコストカットや業務効率化を主な目的として導入されてきた。しかし、多くの企業がデータ活用に取り組み、ビジネスでの活用を模索する中で業務自動化の役割も変わりつつある。業務自動化になぜ取り組むべきなのか。また、今後押さえるべき業務自動化のポイントは。ITRのアナリストの舘野氏が解説する。
自動化の対象領域 多くの企業が「課題」と考える業務は?
引き続き、日本企業における業務自動化の現状をみていこう。
自動化の対象となっている領域は、給与計算や労務管理といった管理部門の定型業務が多い。
業務自動化の対象範囲として整理すると、以下の通りだ。
他社との差別化につながらない標準プロセスはIT業務、一般業務ともに自動化の対象範囲となっている。また、自社固有の業務プロセスの中でも、IT業務に関わる範囲では自動化が進んでいるという。
「今、多くの企業が課題と考えているのは自社固有のプロセスで実行されている一般業務だ」と舘野氏は指摘する。具体的には新規顧客の登録、注文や発送の処理、問い合わせ対応など品質レベルによって差別化が起こる業務が該当する。
こうした業務ではこれまでERPなどをカスタマイズすることで自動化機能を実装してきたが、近年は費用やメンテナンス負荷の増大を招くことから敬遠されがちだ。手ごろな商用製品も存在しないという。
「RPAやiPaaS(Integration Platform as a Service)、ローコード/ノーコード開発プラットフォーム、チャットbot、機械学習を含むAI(人工知能)に至るまで、さまざまなテクノロジーの中から選び取って適用することが求められている」
こうしたテクノロジーも適用に当たってはカスタマイズが必要になるケースもある。ただし、ERPなどのカスタマイズに比べてコストが安いため、かつてに比べると自動化に取り組みやすい環境となった。「こうした環境も自動化に対する関心を引き上げる結果をもたらしている」と舘野氏は指摘する。
変わりつつある「自動化の潮流」
業務自動化の今後はどうなるのだろうか。
企業で扱うデータ量が増大する中、データをいかに活用するかは多くの企業にとって重要課題となっている。舘野氏は「データ処理は企業にとって切実な課題だ」と語る。同氏によると、企業で扱うデータ量の増大にはデジタル化の進展だけでなくコロナ禍の影響もあるという。「会議や資料のやりとりがWebで行われるようになった結果、(コロナ禍前の)2019年12月と比べて2022年5月のデータ総量は約2倍になった」(舘野氏)
こうした中で業務自動化の目的も変わりつつある。「これまでは省力化、省人化が業務自動化を進める目的だったが、現在は生産性向上への意識が高くなっている。今後は計画や予測をはじめとする領域にも拡大していく」というのが同氏の見立てだ。
ただし、現時点では自動化の取り組みが比較的進んでいる大企業でも自動化の対象としているのはバックオフィスの定型業務が中心だ。ビジネスに直接的なインパクトをもたらす領域への本格的な“進出”はこの先の展開になると同氏はみている。
「今後検討中」とされている業務には「人事/給与」カテゴリーの「人事評価」や、「財務/会計」の「計画/予測」といった人の判断や意思決定が重要な業務だ。舘野氏は今後、業務自動化の対象となる業務について「バックオフィス業務においては、単純なタスクからより知的なタスクへと自動化のターゲットが移っていく」と予測する。
後編では、業務自動化を進めていく上で企業が抱える課題や、内製化やAIの活用といった「自動化導入をさらに進めていくための課題」を見ていく。RPAツールの利用による個別業務を対象とした自動化からのステップアップを考えている企業や担当者の参考になるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
日清食品グループはいかに「デジタルを武装」したか 改善点を洗い出す、現場主導の組織づくり
日清食品グループは、徹底的に改善点を洗い出してデジタル化を推進することで、年間10万時間にあたる業務工数を削減した。現場主導の組織づくりについて具体的な手法を紹介する。
ボスが「問題ない」って言うならヨシ? 日本企業の自動化を阻む“属人主義の壁”
日本企業の多くは「業務の自動化」をルーティンワークの負担を軽減する技術として捉えているが、世界の先端企業はその先を見据えている。なぜ自動化の対象を個別業務から企業全体に拡大すべきなのか。UiPathが指摘する、日本企業の自動化を阻む“属人化の壁”とは。
ノーコード開発ツール「kintone」ヒットの理由――サイボウズ青野社長は何を語ったか
企業がDXを進めるためのテクノロジーとして、事業部門の担当者が利用しやすいノーコード開発ツールが注目されている。中でも普及に勢いがついてきているのが、サイボウズの「kintone」だ。多くのユーザーに受け入れられる理由について、同社の青野社長は何を語ったか。
UiPath日本法人トップが明かす 自動化が「うまくいかない」企業の特徴
UiPathが「UiPath 2022.4」の提供を開始した。記者会見でUiPath日本法人トップの長谷川氏は「自動化がうまくいかない企業」の特徴に触れ、アドバイスを送った。

