AIによる「意思決定の自動化」は“正しいこと”なのか? IBMの最新調査から考察:Weekly Memo(2/2 ページ)
生成AIを活用する最大のリスクは「人間が行う意思決定を委ねてしまうこと」ではないか。筆者がかねて抱いてきたこの懸念を、IBMの最新調査結果とともに考察したい。
人間の主体性を失わない生成AIの活用法とは
松瀬氏は「データ価値創造型CDOは他のCDOよりAIを有効活用している。特に意思決定の自動化にAIを利用している割合は倍近い差がある。今後、日本のCDOもデータ投資によってビジネスの成長ペースを加速し、データROI(投資利益率)の向上に貢献していくため、データ管理と統制に加えてデータ活用推進に対する取り組みを強化していくことが重要だ」と述べて、AIの有効活用を促した。
調査結果から、データ価値創造型CDOは他のCDOよりもAIを有効活用していることが分かる(図2)。データ価値創造型CDOの64%、その他のCDOの34%が「意思決定の自動化にAIを利用している」と回答している。
この意思決定の自動化にAIを利用するという話はAI全般に関する言及だったが、筆者がかねて抱いてきた生成AIに対する懸念が頭に浮かび上がった。
筆者が抱く懸念は、生成AIが意思決定を支援するにとどまらず、人間が生成AIに意思決定を委ねてしまうことだ。生成AIのリスクについては冒頭でも述べた通りだが、筆者が取材してきた中でリスクとして最もインパクトを感じたのは、「生成AIを使う個々人の意思決定の在り方が変わってしまう可能性がある」との見方だ。
数年もすれば、生成AIが生成する「判断」は、さまざまな局面において正しい確率が格段に高くなるだろう。人間はそれを「参考」にしていたつもりが、いつの間にか「自らの意思決定」にすり替えてしまうようになるのではないか。「正しい判断ならばそれでも良い」とも思えるが、このやりとりを繰り返すと、人間は主体性を失っていく。懸念するのは、この点だ。
そこで、今回の会見の質疑応答で「AIによる意思決定の自動化は、果たして正しいことか。人間がAIに意思決定を委ねてしまうことにならないか」と聞いてみた。すると、この調査レポートに深く関わった鈴木氏が次のように答えた。
「『意思決定の自動化』という表現が誤解を招く面があるかもしれないが、業務プロセスにおける判断などはAIに任せても問題ないところが少なくないだろう。その上で、人間がAIに意思決定を委ねてしまわないようにするには、そうならないようなマネジメントの体制をしっかりと整えることが肝要だ。AIの利用は、現場任せ、個人任せにしないことが重要だと考えている」
確かに、マネジメントの在り方は今後大きなポイントになりそうだ。加えて、今回の調査レポートには「直感に頼った意思決定ではなく、AIを利用してデータと予測に基づく情報主導のアクションをとる」「人間による管理を最上位に位置付け、常時、人間が必ず関与するようにする」といったアクションガイドの表記もあった。
最後に、個人に向けても自戒を込めて一言。生成AIをうまく使いこなしていくためにも、人間として理性と感性をしっかりと磨き続けていきたいものである。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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