IBMのAI戦略から探る 「単なるAIユーザーにとどまらない、あるべき企業像」とは:Weekly Memo(1/2 ページ)
今、生成AIをどう活用していくかが、ビジネスの競争力強化を図る大きな課題になりつつある。企業はどうすべきか。AIユーザーにとどまらずに目指すべき「あるべき姿」とは。IBMのAIビジネス戦略から探る。
企業にとって生成AI(人工知能)やその基盤技術である大規模言語モデル(LLM)をどう活用していくかが、ビジネスの競争力強化へ向けた大きな課題になりつつある。どう考え、何をどのように取り入れていけばよいのか。そして、何を目指すのか。
日本IBMが2023年9月20日に開催したAIビジネス戦略についての記者説明会で、ユーザー視点で捉えても興味深い話があったので、今回はその内容を紹介しながら企業における生成AIの生かし方を考察したい。
生成AIを活用するためにどんな選択肢があるのか
IBMは2023年5月、新たなAIプラットフォーム「IBM watsonx」(以下、watsonx)を発表した。IBMは生成AIやLLMを包含して「基盤モデル」と呼んでいるので、本稿でもそのように表現する。日本IBMの村田将輝氏(常務執行役員 テクノロジー事業本部長兼AIビジネス責任者)は、watsonxを「ビジネスのためのAI」と強調した。
watsonxは、さまざまな基盤モデルに対応したAI活用のための「watsonx.ai」、そこで多様なデータを活用できる「watsonx.data」、AIやデータ活用のガバナンスに対応した「watsonx.governance」から構成される(図1)。これらは「Rad Hat OpenShift」によってハイブリッドクラウド環境で利用できる。watsonxがユニークなのは、生成AIだけでなく、それを生かすデータ活用やガバナンスのツールまで用意されていることだ。村田氏はこれをして「ビジネスのための」と強調している。ユーザー視点からもこの捉え方は非常に重要だ。
Watsonxを展開するに当たって、IBMはAIに対する信念として「オープン(Open)」「信頼(Trusted)」「明確な対象(Targeted)」「力を与える(Empowering)」の4つを挙げる。「オープン」は、マルチ基盤モデルに対応し、オープンなクラウドネイティブ技術を基本としていること。「信頼」は、信頼できる学習データを利用し、AIライフサイクルを「見える化」していること。「明確な対象」は、ビジネス課題の解決に集中するとともに、特定用途向けに追加学習できること。「力を与える」は、顧客企業のAIモデルを創造するとともに、あらゆるシステム環境で動くこと。これらが4つの信念の意味するところだ。
これらの信念はIBMが持っているものだが、ユーザー視点でもAIを利用する上で重要な要素だと言えるだろう。
村田氏は次に、IBMが提供するAIモデル構築のアプローチとして次の4つのパターンがあると説明した(図2)。
- 「構築済みのAIサービスを製品に組み込む」:ここでの「自社製品」は、IBM製ではない業務アプリケーションに、IBMのAIサービスを組み込んで提供する形だ。IBMはこうした業務アプリケーションとしてSAPやSalesforceと提携している
- 「構築済みのAIサービスを利用する」:1つ目の業務アプリケーションに代えてIBM製品を適用したものだ。つまりは、全てIBM製品で取りそろえた形だ
- 「基盤モデルを利用して独自のAIサービスを創る」:追加学習から独自のAIサービスを構築していく形だ
- 「基盤モデルからスクラッチでAIサービスを創る」:文字通り、スクラッチで全てを開発する形だ
これら4つのパターンでユーザーニーズに柔軟に対応できるというのが、IBMのAIの特徴だ。とりわけ、1のパターンが増えれば、AIビジネスのエコシステムが広がる形になる。かつてのIBMならば、2の「IBMブランド」をどんどん押し出していくイメージだが、今回の会見の説明ではむしろ1の「組み込み型」を前面に押し出していたのが印象的だった。
これらのパターンは、ユーザー視点から見ても、AIモデル構築における取り組みの選択肢として捉えることができよう。
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