IBMのAI戦略から探る 「単なるAIユーザーにとどまらない、あるべき企業像」とは:Weekly Memo(2/2 ページ)
今、生成AIをどう活用していくかが、ビジネスの競争力強化を図る大きな課題になりつつある。企業はどうすべきか。AIユーザーにとどまらずに目指すべき「あるべき姿」とは。IBMのAIビジネス戦略から探る。
AIユーザーにとどまらず「AI価値創造企業」を目指せ
先ほど、IBMのAIに対する信念として、オープンのところで述べた「マルチ基盤モデル」について、watsonxの大きな特徴なので、以下に少し説明しておこう。
村田氏は、watsonx.aiで利用できる基盤モデルの例を示した(図3)。「IBM独自の基盤モデル」「オープンソース基盤モデル」「他社製基盤モデル」という3つの基盤モデルにwatsonx.aiは対応している。
図3は、それぞれの基盤モデルについてパラメータ数とともに「質疑応答」「生成」「抽出」「要約」「分類」といった生成AIの主要機能を装備しているかどうかを示している。ちなみに、右側の他社製基盤モデルに記されている「Llama2-chat」は、Facebookを運営しているMeta Platforms(以下、Meta)のチャットモデルの生成AIだ。IBMはMetaとの提携にも注力しているようだ。
図3でもう一つ注目したいのは、IBM独自の基盤モデル「Granite」だ。IBMが2023年9月7日(現地時間)に発表したばかりの新製品について、村田氏は「日本語版を2024年1〜3月に提供開始する」と明言した。
図3については、ユーザー視点からも「選択肢」という観点で興味深い内容だろう。
これまで村田氏の説明を通じてAIに対する考え方や取り組み方を述べてきた。最後に、AIの領域でIBMが目指すところとして同氏は次のように語った。
「IBMはAIによって、お客さまが単にAIユーザーになるだけでなく、自社の競争力をAIで増幅する『AI価値創造企業』になっていただきたい。当社はそのためのAI活用環境を提供して、お客さまのチャレンジを支援したい」
このコメントに解説の必要はないだろう。目指すは、ユーザーにとどまらない「AI価値創造企業」だ(図4)。
今回の会見でIBMならではのAIビジネス戦略の話を聞いたところで、せっかくの機会なので質疑応答の際、「生成AIの活用については、『ChatGPT』でブームを巻き起こしたOpenAIの技術をベースとしたサービスがビジネス向けにもどんどん広がっている。IBMのAIはこの流れを変えられるとお考えか」と聞いてみた。すると、村田氏は次のように答えた。
「ビジネスのためのAIをフル活用して『AI価値創造企業』を目指していただくためには、当社がこれから提供していくソリューションがお客さまにとって必ず価値を生むと確信している。その価値をお客さまと共創できるように注力していきたい」
「流れを変えられるか」に直接的な回答は得られなかったが、答えにくい質問への丁寧な対応が印象に残った。IBMの戦略が奏功するか注目したい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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